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無題  作者: 結城智
第2章 ~中学2年の冬~
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第18話 婆ちゃんと水樹さんの出会い

 驚いている僕とは対照的で、水樹さんは無表情のまま、僕の右手を見つめている。正確には僕のスマホを見ていた。


「ああ。いいところだったのに」


 不満そうに眉を下げる水樹さんに対し、僕は今だ狼狽えていた。


 後ろにいたのも当然驚いたが、僕が読んでいた漫画をずっと水樹さんに見られていたという状況に羞恥心を覚える。


「名取君はドラえもんが好きなのね」


 うわー、ド直球で聞かないでくれよ。恥ずかしいだろ。そりゃ、わざわざスマホの電子書籍で購入するくらいだ。好きじゃありませんって言ったら、完全に嘘だとわかる。


「私は好きよ、ドラえもん。夢があるもんね」

「そ、そうだね」


 僕は苦し紛れに相槌を打つしかなかった。


 ヤダな。七瀬さんに吹聴しないで欲しいけど、わざわざ口止めするのも恥ずかしい。


「水樹さんは買い物しに来たの?」

「ええ、そうよ。買い物以外で来るかしら?」

「そりゃ。そうだね」


 話題を逸らすにしても、馬鹿な質問をしてしまったようだ。


「ちょっと、新しい花でも植えようと思ったのよ」

「へぇ。水樹さん、園芸の趣味があったんだ」

「なに。意外だと言いたいのかしら。野蛮な女に花は似合わないと?」

「誰もそんなこと言ってないだろ」


 いきなり、水樹さんに睨まれる。全く捻くれた性格だな。僕も人のことは言えないが。


「あら。紅葉ちゃんじゃない」


 二人の間に突然、別の声が割り込んでくる。視線を移すと、そこには婆ちゃんがいた。

 紅葉ちゃん? えっ、婆ちゃん、なんで水樹さんの名前を知っているんだ? 


 僕が不意を付かれいると、水樹さんも同じように惚けていた。


「塔子さん?」


 と、塔子さん? 水樹さんも婆ちゃんのことを知っているのか。


 なんだ、いつの間にこの二人、知り合いになっていたんだ。僕も混乱していたが、それは水樹さんも一緒だった。僕と婆ちゃんの顔を交互に見て、戸惑っている。


「総ちゃん、紅葉ちゃんと知り合いだったのかい」


 その空気を先に破ったのは婆ちゃんだった。ちょっと嬉しそうな顔で、僕に質問する。


「うん。クラスメイトだよ」

「あら、紅葉ちゃん。総ちゃんと同い年だったのね。しっかりしてるから、もっと上かと思ったよ」


 悪かったな、僕はガキ臭くて。と、内心思ったが、ここはグッと堪えた。


「塔子さんは、その……名取君のお婆様?」


 水樹さんには珍しく、慎重な口調だ。婆ちゃんは笑って「そうだよ」と頷く。


「それより、二人はなんで知り合いなんだよ?」


 次は僕の方から質問する。すると、婆ちゃんと水樹さんは、互いに顔を見合わせて、知り合いになった経緯を婆ちゃんの方から説明してくれた。


 婆ちゃんと水樹さんが出会ったのは、偶然にもこのホームセンターだった。


 その日、婆ちゃんは園芸コーナーで少し多めに買い物をしていたが、婆ちゃん一人で荷物を持つには大変そうだと思い、水樹さんが手を差し伸ばしたのが最初の出来事。


 それからたまにこの店で顔を合わせると、園芸の話しに花を咲かせていたようだ。

言われてみれば婆ちゃん、よく土日に一人、この店に行くことも多かったし、帰りが遅かったこともあったな。まさか、水樹さんも常連客だったとは。


「言われてみれば、塔子さん、お孫さんの話しをよくされてましたね。それが名取君だとは思いませんでしたが」


 まだ混乱しているのか、水樹さんは目を瞬きさせていた。てか、それよりも僕は水樹さんが敬語で喋っているのに衝撃を受けている。普段は先生に対しても癖のある口調なのに。


「へぇ、二人が知り合いだったとはねぇ。総ちゃん、結婚するなら紅葉ちゃんみたいな、ベッピンさんで、優しい子にするんだよ」

「ば、婆ちゃん。失礼だろ」


 婆ちゃんが突然、変なことを言う。


「なにが失礼なの? 嬉しい、お褒めの言葉じゃない」


 狼狽える僕とは対照的で、水樹さんは僕を訝しげ見つめていた。


 ああ、そうだね。冷静に考えればそうだけど、この状況で冷静になれる水樹さんが凄い。逆に言えば、水樹さんが僕のことを一切、異性として意識していないことを実感した。


「塔子さん。残念ながら、名取君は私みたいなガサツなタイプではなく、もっと愛想がよくて、小柄で可愛く、守ってあげたくなるような女の子がタイプなんですよ」

「そうなのかい?」


 淡々とした会話。しかし、僕だけが衝撃を受けていた。


 愛想がよくて、小柄で可愛く、守ってあげたいタイプ。それはなにを指しているのだろう。


 たまたまか? それとも水樹さんは、僕が七瀬さんを好きなことを知っているのだろうか。動揺しながら水樹さんの表情を伺うと目が合ってしまう。


 無表情である水樹さんの顔からは、なにも読み取れなかった。というか、僕自身、相手の表情を読み解く人間観察する能力は持ち合わせていない。


「塔子さんは今日、なにを買いに来たんですか?」

「ああ、ちょうど迷ってたのよ。紅葉ちゃん、一緒に考えてくれる?」

「ええ、いいですよ」


 僕から目を逸らした水樹さんは、そのまま婆ちゃんと一緒に園芸コーナーに消えていくのであった。

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