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無題  作者: 結城智
第2章 ~中学2年の冬~
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第14話 嫉妬

「付き合うって、僕と水樹さんが?」

「そう」

「なんでそうなるの?」

「だって、紅葉と名取君、趣味が合うじゃん」

「それだけ? なら、他にも沢山いるよ。サッカー好きな男なんて」

「ううん、それだけじゃないよ。前から思ったけど、名取君って紅葉と話しても尻込みしないよね。紅葉も口には出さないけど、名取君には心許してる感じするし。だからね、私ずっと二人はお似合いなんじゃないかって思ってた。だから今日、名取君を誘ったの」


 なんだよ、それ。それなら、仁だってそうだろう。それなのに、なんで僕と水樹さんをくつけようとするんだ。


 まさか、七瀬さんは仁のことを――。


「私、名取君が相手なら応援するんだけどなぁ」


 ああ、やばい。体が熱くなってきた。ダメだ。落ち着け。絶対、爆発させるな。

なんだろう、この感情は……初めて味わう感覚。そうか。これが嫉妬という感情なのか。


「名取君?」


 僕の異変に気付いたのか。七瀬さんは少し困ったような顔をする。


 あー。やばいやばいやばい。このままでは、七瀬さんに嫌われてしまう。


 僕はとっさに「あっ!」と、わざとらしく声をあげた。


「ごめん、七瀬さん。今日、用事があるの忘れてた。本当、申し訳ない」


 ここは逃げるが勝ちだ。そう思い、立ち去ろうと背を向けるが、僕の腕を七瀬さんは素早く掴む。


 当然、僕の動きは止まってしまう。さすがに七瀬さんの腕を振り払う勇気がないという理由もあったが、一番の理由は別だった。


 そう。七瀬さんの目は潤んでいたのだ。まさか、泣かせてしまったのか。と、僕の体は硬直する。

参ったな、泣きたいのは僕の方なんだけどな。


「私、名取君を怒らせるようなことを言ったなら謝るから。だから、逃げないで」

「いや、逃げてないよ。僕、用事があるから」

「じゃあ、用事って何? 言ってみなよ」

「それは……そう、塾だよ。今から塾に行くんだよ」

「はぁ! なにその、今思い浮かびました系の嘘。今まで塾行ってるなんて聞いたことがないんだけど! そんな低能な嘘、よく思いついたね!」


 キョーレツ! 好きな子に低能って言われちゃったよ。滅茶苦茶ショックだけど、それよりも七瀬さんがガチギレしていることに恐怖を覚える。


 普段、ニコニコしている子が怒ると怖さが倍増するとはよく言うが、全くもってその通りだと思った。


「言いたいことがあるなら、はっきり言ってよ! 男の子でしょ」


 そんなのお前が好きだからに決まってるだろ! なんて、まるでドラマや漫画にある名シーンみたいな発言を口に出来るはずもなく、僕は黙って俯いてしまう。


「もう一度聞くよ。今日、用事あるって本当?」

「……嘘です」

「今日、買い物付き合ってくれるよね?」

「はい」


 逆らえなくなった僕は完全に七瀬さんの言いなりになった。


 観念した僕の腕から手を離した七瀬さんは複雑そうに眉を顰める。


「ごめんね。無理に紅葉をくつけようとしたからだよね。気に障ったのなら謝る。もしかして、他に好きな人いた?」


 なにげない七瀬さんの問いに僕の胸はまた痛くなる。

 ここで七瀬さんのことを好きなんて言う勇気もないし、ループを使って試してみようなんて気持ちにもならない。


「ああ、ごめん。言えないよね」


 黙り込んでしまう僕を見て、七瀬さんは察したように頷くと、無理矢理明るい声で言った。


「とにかく、今日は付き合ってよ。名取君が頼りなんだから」


 その後、僕達はアーケードに立ち寄り、水樹さんのプレゼントを探すのであった。




 僕と七瀬さんはネットで店を検索し、アーケード外から少し離れたスポーツ用品店に向かった。そこにあったサッカーコーナーからグッズを探す。


 店は大きく、いろんなグッズが置いてある。とはいえ、今人気がある選手のグッズはあったが、七瀬さんの手帳にあった選手のグッズは残念ながら置いてなかった。


「紅葉が好きな選手ってマニアック?」

「違うよ。時代が古過ぎるんだ」


 どれも現役だった頃は素晴らしい活躍をしていた選手。十年前に来ていれば、間違いなく全員おいてあったはずだ。


 結果、七瀬さんはACミランのロゴが入ったマフラーやマグカップを買った。


 七瀬さんが会計している時、そういえば僕も水樹さんにプレゼントを買ってあげた方がいいのか一瞬迷ったが、やめておこうという結論に至った。

 自分は水樹さんとそこまで親しいかと問われれば疑問だし、渡してしまうと逆に返さなきゃいけないという気を遣わせるかもしれない。まあ、水樹さんなら平然とした口調で「なんで、名取君からプレゼントをもらわなきゃいけないの?」みたいなこと言われそうだしな。


 その後、七瀬さんはテニスのコーナーを少し見ていたが、特に長居することはなく、店を出ることになった。


「名取君。今日はありがとね」


 外に出ると、七瀬さんは開口一番にそう言った。満足げにプレゼントを持つ七瀬さんを見て、僕はホッとした気持ちになる。


「そう。良かった」


 僕は頷き、そのまま家路の方へ歩き出そうとすると、七瀬さんは「待って」と呼び止めてきた。


「今日、付き合ってくれたお礼をさせてよ」

「別にいいよ。これといって、力になれたかも疑問だし」


 少しでも長い時間、七瀬さんと一緒にいられるのは嬉しいが、さっきの件もあるし、未だに気まずい気持ちは拭えなかった。


「ううん、ダメ。それじゃ、私の気が収まらない」


 七瀬さんは眉を潜めて、首を大袈裟に振ってみせる。


 今日一緒にいてわかったが、七瀬さんは結構、頑固だ。僕がここで首を振り続けても、埒が明かないだろう。そんなことを思いながら、視線を右側にずらすと、近くにあった自動販売機が目に入った。


「なら、缶コーヒーでいいよ」

「ダメ。缶コーヒーは絶対ダメ」

「どうして? そんな高いもの、僕だって奢られたくないよ」

「じゃあ、喫茶店のコーヒーにしよう」

「それって、なんか違いある?」


 喫茶店のコーヒーの方が、ちょっと高くて美味しいとか? と、僕が頭の中で解釈していると、七瀬さんからは全く違う返答が返ってきた。


「名取君は店内に閉じ込めた方がいいの。外だったら、また逃げ出す危険があるから」


 と、七瀬さんは頬を膨らませていた。


 まさか、ここで自分の方から話しを蒸し返してくるとは思わなかったな。


 なら帰る。と、言いたいところだが、七瀬さんの無垢で真っ直ぐな瞳に僕は渋々と頷くしかない状況に立たされていた。

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