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無題  作者: 結城智
第2章 ~中学2年の冬~
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第13話 水樹さんの誕生日

「水樹さんの誕生日?」

「そう。十二月二十日なんだ」

「二十日ということは来週か」


 学校の帰り道。まさか、七瀬さんと一緒に下校出来る日がくるとは。しかも買い物まで一緒に付き合ってと頼まれるなんて幸せ過ぎて心配だ。


 これで幸せ貯金の残高が0にならなきゃいいが……と、そんなバカなことを考えていると、隣りを歩いていた七瀬さんが僕の顔を覗き込む。


「ねぇ。返事聞かずに引っ張っちゃったけど、買い物付き合ってくれるよね?」


 七瀬さんは首を傾げながら、チワワみたいな目を僕に向けてくる。

 当たり前だよ。なんなら毎日、七瀬さんと一緒に出かけたい。ああ、当然、仁や水樹さんは抜きにして二人きりだよ。


「構わないよ」


 危ない。持病は発生せず、僕は至って冷静に答えた。


「でも、なんで僕なの? 他の友達でも良かったんじゃない」


 素朴な疑問を口にすると、七瀬さんは大きな溜息を漏らす。


「うん。ちょっと普通の子達だと難題かな。私もそうだけど」


 どゆこと? まあ、ここは黙って聞いておこう。


「紅葉がサッカー好きなのは知ってるよね。しかも、日本代表の選手が好きだったら、なんとかなったけど、海外の選手が好きでさ。ぶっちゃけ女子は皆、そういう知識に疎いんだ」


 そりゃそうだろう。僕も水樹さんとよくサッカーの話しをするが、最近活躍しているサッカー選手や海外リーグの実態など、水樹さんの知識と情報量を耳にすると、僕や仁も言葉に詰まることが多いくらいだ。


 僕は毎月、発売されているサッカー雑誌を立ち読み程度では読むけど、水樹さんの場合は本を購入して、雑誌の内容を隅から隅まで読んでいるタイプ。だが、根も葉もないSNSの情報は一切信じないところもある。


「でも、無理に水樹さんの趣味に合わせなくていいんじゃない? 普通に女の子が喜ぶものをあげれば、それはそれで喜ぶでしょ」

「それって例えば?」


 うっ。例えばと言われると困るな。


 僕が言葉に詰まっている姿を見て、七瀬さんはまた溜息を漏らし、空を見上げた。


「去年はさ。ポーチとか、スマホのカバー買ったんだ」

「へぇ。いいじゃん。それで?」

「私はさ、紅葉のポーチもスマホのカバーも、ダサいと思って買ったつもりだったんだけど。そのダサいと思ったものが、実は紅葉のお気に入りだったサッカーのロゴだったみたいで。結果、私がプレゼントしたものはその後、使ってくれている形跡はなかったよね」


 と、七瀬さんは愚痴のようにブツブツと呟く。


 大分、ショックだったんだろうな。暗いオーラがこちらにまで充満してくる。


「だから、同じ失敗したくないの。わかるでしょ」


 七瀬さんは僕を見つめ、少し不機嫌そうに口を尖らせる。同意を求めているようだったので、僕は「そうだね」と相槌を打つ。


 まあ、僕の場合、七瀬さんと買い物に行けるなら、口実なんてなくても構わない。


「で? なに買うか目星はつけたの?」


 買うものによって、行く場所も変わってくるだろう。


 サッカーボールやユニホームとかだと、スポーツ用品店だし、選手やチームのグッズなら、それらしい店をスマホで検索した方が良さそうだ。実際、種類が豊富なのは通販なのだろうが、それを言ってしまえば、七瀬さんとの買い物自体がなくなってしまうので、余計なことは言わないでおく。


「ふふん。安心したまえ。調査済みだよ」


 待ってました。と言わんばかりの顔で、七瀬さんはスマホを取り出す。


「前、紅葉が好きって言っていた選手をメモったんだ。えーと、待ってね……ガットゥーゾ。インザーギ。マルディーニ。アズーリ。ロッソネロ、だって。他にもいろいろ言ってたけど、よくわかんないや。まだメッシとか、ロナウドとか言ってくれれば、私もわかるんだけどね」

「いや、わかんなくて当然だよ。その選手、今はもう現役じゃないから。むしろ、僕達の同世代で聞いてわかる人、ほとんどいないじゃないかな」


 僕が今、言われた選手の名前を認識できたのは、父さんと過去のWカップや海外サッカーを観たおかげ。偶然にも、父が好きな世代に被っていた。


 ちなみに最後に出たアズーリ、ロッソネロは選手名じゃない。アズーリはイタリア代表の愛称であり、ロッソネロはイタリアリーグのACミランというチームの愛称だ。

 先程、あげた選手も全員イタリア人だし、全員ACミランにいた選手だから、水樹さんが好きな選手の系統がほぼ把握できた。というか、水樹さん、インザーギ好きだったんだ。それなら、そうだと言ってくれれば良かったのに。


 と、そんなことを考えていると、七瀬さんは下から覗き込むように僕の表情を伺っている。


「その言い方だと、名取君は知っている風だね」

「まあね」

「さすがだね。本当、紅葉と名取君ってお似合い。いっそのこと二人共、付き合っちゃえばいいのに」


 えっ、付き合う? 僕は一瞬、自分の耳を疑った。驚いて七瀬さんを見つめると、ニヤリと笑みを浮かべている。

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