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無題  作者: 結城智
第1章 ~中学2年の夏~
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第10話 出場辞退

 僕達は試合が終わった後、次の試合を観戦していた。


 どちらもレベルの高い中学であり、優勝経験がある強豪だ。試合を見る限り、両チームともに連携がとれたサッカーをしている。


 ぶっちゃけ、普通に試合したら、うちのチームはボロ負けするだろうな。

 やれやれ。ループを何回、使うことになるのだろう。


 気が遠くなるといった面倒臭い気持ちもあったが、それ以上にまたシュートを決めたら、自分の評価は鰻登りだという期待心があった。


 もしかしたら、学校でも噂になって、七瀬さんの耳にも入るかもしれない。


『名取君。準決勝と決勝で、凄い活躍だったみたいじゃない。私と付き合って』

 

 なんてご都合主義な展開にはならないだろうが、印象が良くなるのは間違いない。


 そして、ここで僕は更にいい情報を耳にすることになる。


 同じサッカー部である同級生が僕に歩み寄ると、周りの目を気にしながら耳元で囁いてきた。


「さっき、岡田先生の話し聞いたんだけどさ。決勝は北村と名取の2トップでいくみたいだぜ」


 なんと。決勝という大舞台でレギュラー獲得とはなんという幸運。いや、幸運ではないか。準決勝は僕がいたおかげで勝ったようなものだ。レギュラーになるのはある意味、当然の結果といっていい。


 嬉しくて宙に浮いているような気持ちになった僕は、真相を確かめようと先生がいるだろう控え室へと向かう。しかし、道中である人物の姿が目に入り、僕はとっさに隠れた。


 そこにいたのは相沢先輩とその他の先輩二人。次は決勝だというのに、空気が暗いのは傍から見ても一目瞭然。


 どうしたんだろう、一体? と、考えてはみたが、僕の中でその違和感はすぐに見つかった。


 僕がレギュラーとなれば相沢先輩はどうなる? 当然、控えということになる。相沢先輩は三年生だから、今回の試合で引退となる。チームとして決勝に行けたことはいいが、決勝戦はレギュラーで出場出来ず、後輩二人の試合を見るのは複雑な心境だろう。


 負けるにしても、自分の力を十二分に発揮して負けた方がいい。だから、さっきの準決勝で潔く負けてしまった方がすっきりしたのではないのだろうか。実際、北村君が活躍するのは想定内だったはずだが、僕が急に現れて活躍し、更にチームを勝たす救世主となることは完全に想定外だったはずだ。

今、相沢先輩はずっと舞台に立って、光を浴びていたのに補欠である後輩に蹴っ飛ばされ、舞台から蹴り落とされたような気持ちにいるに違いない。


 僕は先程までのウキウキした気持ちから一変、急に複雑な気持ちに支配される。

 モヤモヤとした思い残し、僕は先生のところへ行くのを辞め、体育館からサッカー場に出る。


 太陽の光が視界を眩しくするが、僕の気持ちは晴れ晴れとしない。

 むしろ、こんな快晴な空の下で決勝戦に出れるのは、そりゃ気持ちいいんだろうな。と、考えてしまうと、相沢先輩の顔が浮かび、僕の胸は押し潰される。


 自分の実力でレギュラーになれたなら――。それなら、まだ気持ちに踏ん切りがつく。自分の実力だからと胸を張れる。でも、実際は違う。僕はループという反則を犯している。だからだろうか、今の僕は罪悪感で一杯だ。


 太陽が眩しさから目を細めていると、正面から顔見知りの人物が声をかけてきた。


「おう、名取。次の試合、レギュラーの可能性があるみたいだな。一緒にウォーミングアップしようぜ」


 北村君だ。口元を緩め、自信満々な顔をしている。


 きっと北村君の中では、レギュラーを外されるのは自分だとは思っていないだろう。


 それもそうだ。彼は試合で活躍したし、胸を張れるだけ彼は努力をし続けた人間。ここで彼を外すなどバカな選択だし、そうあってはならない。


 でも、それは相沢先輩も一緒。きっと、僕より努力していたから、レギュラーになれたんだ。それを才能だという簡単な一言で片付けていいものではない。


 僕がやってきた努力なんてものは自己満足でしかない。それはここ数日、北村君と一緒にこなしている練習が証明している。


 いろんな複雑な思いが頭の中を駆け巡ったが、最終的に僕は一つの結論に至った。

僕は急に北村君の目の前でしゃがみ込むと、右足の足首を抑える。


「イタタタッ」

「大丈夫か、名取」


 僕が痛そうな顔をすると、北村君は慌てた様子でしゃがみ込む。


「どうかな? さっきの試合で捻挫したかも」

「マジかよ。医務室行ったのか?」

「いや。そこまで痛くはないけど。でも、ちょっと次の試合に出るのは厳しいかも。いや、悔しいけどさ。悪化しちゃうも嫌だし」


 僕の様子を見た北村君は残念そうに肩を落としていたが、すぐに頷いた。


「そうだな。無理することじゃない。俺達は来年もあるし。ここで名取の怪我が悪化して、俺の自主練に影響が出たら困る」


 心配するところ、そこですか? と、突っ込みたい気持ちがあったが、怪我の具合を疑われるよりはずっといい。


「大丈夫だ。うちには相沢先輩がいる。決勝で勝てば、東北大会でもチャンスがあるぞ」


 東北大会か。北村君はやっぱり凄いな。


 悪いけど、僕は決勝で勝てる可能性はほぼ0だと思っている。準決勝で本当は負けていた中学よりも、決勝の相手は強い。東北大会出場の常連であり、全国大会出場の実績がある強豪中。


 ループを使えば、勝てるだろうが、相当なやり直しを行う必要があり、結構しんどい作業になると覚悟していた。TVゲームに例えると、セーブとリセットボタンを何回も繰り返し押し、やり直すような地味な作業と似ている。


 でも、それにも解放された。やり直しはない。世界は緩やかに流れていくだろう。

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