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無題  作者: 結城智
第1章 ~中学2年の夏~
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第9話 ループ発動・決勝進出

「名取。大丈夫か」


 十分前へと時間がループした。北村君は控えから出てきた僕に声をかけてくる。


「華麗には決められないけど、点は取るよ」


 と、僕は先程と同じこと言った。北村君も「期待してるぜ。インザーギ」と、先程と同じことを言い、僕の腰を叩く。


 僕は数分後、前の自分とは全く別の場所へと素早く移動した。対照的に、他の人達は同じ動きを正確に表現している。

 味方のパスから、北村君がボールを受け取った。しかし、素早くDF二人がボールを奪いに走って来るため、北村君は苦し紛れにゴールめがけてシュートを放つ。


 そう、この瞬間を僕は待っていた。


 ロングシュートはGKのパンチングによって弾かれ、弾かれたボールは相手DFにクリアされるのだ。

 その運命をこの世界で僕だけが知っている。よって、相手DFが反応してクリアするよりも早く、僕はボールの飛ぶ着地点めがけて駆け寄り、スライディングする格好で滑り込む。

 つま先に触れたボールは、コロコロと緩やかに転がっていく。

 GKはこの時、体制を崩しているため、緩やかなボールにも反応できず、ボールはそのままゴールネットを揺らした。


 結果、僕はゴールを決めた。けして華麗ではないが、まあ、ゴールには変わりないだろう。

 冴えないな、と不満に思う僕の気持ちとは対照的で、ゴールが決まった瞬間、うちのチームは歓声をあげ、皆が僕の前に走り寄って来て、僕はもみくちゃにされる。


「名取。お前、マジすげぇ臭覚だよ。よくあんなボール、反応できたな」

「いや、偶然だよ。北村君が蹴ったシュートが、たまたま転がってきたから」


 けして自分の実力ではないので、僕は謙虚に手を振ってみせた。やはり罪悪感は拭えない。


「いや、偶然だけじゃない。普通なら、あの弾かれたボールは、DFにクリアされて終わるはずだ。それなのに【名取はそこにボールが転がってくるのを知っていた】かのように、素早く反応して蹴った。これは名取の凄まじい嗅覚が生んだゴールだ」


 冷静に解説する北村君の言葉に、周りの皆は「おー」と関心したような声をあげる。


 とにかく、これで2対2となった。


 このまま、PK戦で勝つという方法も考えたが、相手チームも追いつかれてしまった焦りからか、ミスを犯す瞬間があった。


 それは相手DFのクリアミス。この時はクリアミスに反応した他のDFがとっさにカバーし、チャンスに結び付けることが出来なかった。


 が、その光景を目に焼き付けた僕はループを使い、数秒前に時間を戻す。

 ループ後、クリアミスに反応した僕はボールを奪い、GKと1対1になったところ、冷静にシュートを放ち、ゴールネットを揺らすことになる。


 きっと、普段ならプレッシャーに負けて、外す確率の方が高いのだろうが、ループがあるという安心感のおかげで一回で決めることが出来た。


 1点目の盛り上がりも凄かったが、2点目はそれ以上で、皆は僕に体に乗っかるように飛びかかってきた。


 当然、ドミロ倒しのように僕の体は地面に倒される。それぞれ何か言っているが、興奮しているせいで、なにを言っているのかはわからない。てか、重い。早く降りてくれ。


 しばらくして、皆が僕から離れていくと、互いに口を揃え「決勝だ!」と拳を上げる。

僕は立ち上がって、相手チームを見た。当然かもしれないが、誰もが信じられないといった様子で立ち尽くしている。


 無理もない。十分前までは、2対1の状況で勝っていたのに、この数分で2点取られてしまったのだ。これほどまでにもない絶望した状況。相手チームからしたら、僕なんかは死神に見えるだろう。

そして、絶望は確信へと変わる。ゴール後、すぐにキックオフとなったが、一分も満たない時間で試合終了のホイッスルが鳴り響いた。


 僕達サッカー部はこの瞬間から、十年ぶりの決勝進出となったのだ。

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