第8話 サッカー部・準決勝敗退
ついに試合の日となった。予想に反して、僕達のチームは一回戦、二回戦目と危なげなく勝利する。なので、悲しいことに僕の出番は全くなかった。
うちの中学は弱小チームのはずだが、相沢先輩と北村君の2トップは想像以上に強く、そしてうまく機能していた。これは噂通り、決勝まで行くんじゃないだろうか。
なにより、北村君のキレが凄ましかった。一回戦目では3点のハットトリック、二試合目でも2点シュートを決めており、北村君はその二試合のMVPといってもいい。
北村君はチーム内でも「よくやった」と褒められた。七瀬さんも「凄いよ。北村君!」と、目をキラキラさせ、飛び跳ねて喜んでいる。
まずいな。このままでは七瀬さんは北村君に取られてしまうと、僕はかなり焦った。しかし、こればっかしはループの力を用いてもどうしようもない。僕は試合にすら出れていないのだから。
試合は土日の二日間で実施される。土曜日は一回戦、二回戦の試合を行われ、日曜日には準決勝と決勝の試合が行われる予定だ。
準決勝、決勝となれば、今日のように順調にはいかないだろう。明日、対戦するチームは東北大会出場の常連チームもいる。いくら相沢先輩、北村君が優れていても、厳しい状況になるだろう。
サッカーは十一人で実施される組織力重視の競技だ。強くなればなるほど、個の力だけでは無理が生じてしまう。
しかし、僕にはループがある。何度でもやり直しがきくので、飛んでくるボールの位置さえ、正確に把握できれば、大抵のゴールを決めることができる。
そこで七瀬さんの心は僕のものとなるわけだ。よし、これで七瀬さん、ゲットだぜ。
しかし、現実はそう甘くはなかった。いきなり、帰る間際、七瀬さんが重大発表をする。
「私、明日、テニス部の試合があるの。残念だけど、観に行けないんだ。二人共、優勝目指して頑張ってね。私も頑張るから!」
七瀬さんは明日試合を控えている為、ここの近くにテニスの試合を行う会場がある。今日はそこで会場の事前準備があったようだ。だから、僕達の試合を見るという工程は悪く言うと、ついでだったようだ。とはいえ、試合明日に控えている状態で、試合を最後まで観てくれたのは嬉しいことではある。僕は出ていないけど。
「でも、紅葉は明日も応援に行くからね」
フォローするように七瀬さんが言うと、横にいた水樹さんは髪をかきあげる。
「行くわけないでしょ。明日は栞の応援に専念するから」
しかし、水樹さんは溜息を漏らし、完全拒否していた。
そして、日曜日。僕は準決勝の試合をベンチから観戦していた。
試合は後半戦で2対1。うちのチームが1点ビハインドという厳しい展開。
試合時間も残り十分程度。危機的な状況で、僕は監督である岡田先生に声をかけられる。
「名取。ウォーミングアップしとけ。相沢と交代だ」
ついに声がかかった。
試合状況を見る限り、相沢先輩が終始マークされており、疲労の色が濃くなっている。そろそろ限界といったところか。
試合時間は残り十分。岡田先生も厳しい場面でぶっこんできたものだ。
僕にはループがある。しかし、折角の機会。最初は自分の力を試してみよう。あれだけ練習したんだ。僕だって可能性があるはずだ。
そして、交代の時。相沢先輩は「名取。頼むぞ」と、僕の肩を掴む。相沢先輩は肩で息をしており、熱気がこっちにまで伝わってくる。緊張で息を呑むが、僕は「任せてください」と頷いてみせた。
任せてください、か。ループの力なしでは、こんな自信満々な発言、口に出来なかっただろうな。
ピッチに立つと、僕は今までに経験のない緊張を味わう。
それもそうだ。僕は中学に入って、初めて試合に出場することになる。しかも点を取ってくれと、期待を背負って出された交代だ。
「名取。大丈夫か?」
FWのポジションに移動すると、北村君が僕の元に歩み寄り声をかけてくる。北村君も疲れた表情を隠し切れていない。僕が大丈夫か? と、言いたいくらいだ。
それもそうだろう。スタミナがあるとはいえ、北村君は昨日の試合で活躍したことがアダとなり、相手チームからのマークも厳しかった。それでも、この試合では1点もぎ取ったのだから、彼の実力は相当な奴だと認めざる得ない。
「華麗には決められないけど、点は取るよ」
僕がさらっとした口調で言う。北村君は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑って「期待してるぜ。インザーギ」と、腰を叩かれた。
僕は10分間、とにかく我武者羅に攻めに行った。ボールを受け取り、シュートを決められそうなチャンスがあったが、ゴールは枠には入らず、誰もが天を仰ぐ形になる。
やはり準決勝に残るだけあって、相手チームのDFも非常にうまく、僕は苦戦を強いられた。苦戦している間にも時間が流れ、虚しくも試合終了のホイッスルが鳴らされた。
相手チームは歓声をあげ、喜びに浸っている。一方、うちのチームは皆項垂れた。
そうか。頑張ったけど、やっぱり現実はそう甘くないよな。この時、悔しさはなく、自分の手をジッと見つめ、冷静にそんなことを考えていた。
「名取。お疲れ。悔しいけど、こればっかしは仕方ない」
北村君は、僕の方に歩み寄ってくる。完全に出し切ったのだろう。肩で息をしており、相当な汗をかいていた。悔し涙なのか、目も少し充血している。
「いや。まだ終わってないよ」
僕は北村君を直視して言う。北村君は「はっ? なに言ってるんだ」と、訝しげに眉を顰めていたが、僕は構わず胸に手を当て呟いた。
「ループ」




