95話 中間大陸における業務 6
様々な不安を抱えつつも、偵察という新たな業務に組み込まれていく。
総勢60人という、企業の戦闘部隊としては比較的大所帯だ。
これだけ居ればどうにかなるかも、という淡い期待も抱いてしまう。
様々な物資や武器を積み込む事でもそんな気持ちは高まっていく。
しかし、町を出て更地を通り抜け、平野に入っていくとそんな気分も消え失せた。
轍がかすかに残る野原を進んでいく。
それ以外に人の気配を感じさせるものはない。
人の領域から出た事をいやというほどはっきり感じる。
ただそれだけで、自分達だけでやっていかねばならない事を意識させられる。
そこに蔓延ってるモンスター共を蹴散らして。
(こりゃあ……)
バギーに乗りながら、危険を感じる。
自然というのはそれだけで脅威になりえる。
天候の変化やそこかしこにある物陰。
何かが飛び出してくるのではないかという恐怖。
ただの杞憂ではなく、それが現実の問題として存在するという恐怖。
兵衛府近隣でもそれは同じではある。
作業で町から出て野外に出向いてはいた。
しかし、それはあくまで都市部の外周部と言えるあたりまで。
今回の偵察は、その程度では済まない。
更に町から離れていかねばならない。
しかも、帰るまで数日は活動する事になる。
途中で何かあっても助けが駆けつける事はない。
切り抜けて帰還するのにも時間がかかる。
(来るんじゃなかったな)
偵察という作業の難しさを肌で感じていった。
とはいえ、進行そのものはそれほど手間取る事もない。
特につっかえる事もなく進んでいける。
事前に観測衛星によって探索されているので、通れそうもない所はある程度避ける事が出来る。
衛星軌道から、そして航空機による大まかな地形の把握はされている。
本当に何も分かってない場所に進むというわけではない。
それでも地上からの観測をするのは、空からでは捉えきれない部分を見るためである。
どうしても見落とすところというのは出て来る。
それを少しでも減らすため、わざわざ人手を割いていくのだ。
同時に、実際に人を動かす事で、どの程度の手間がかかるのかを把握する為でもある。
これまでの経験などからある程度の予想は出来ても、実際に動かしてみないと何がどうなるかは分からない。
なので、まずは少数を繰り出して具合を確かめていく必要がある。
今後、その方面に展開する予定があるなら尚更だ。
この偵察にはそういった側面もある。
予行練習という事も出来るだろう。
加えていうならば、偵察に慣れてない者達の訓練という意味もある。
研修を受けただけで、実際に偵察などに従事した経験の少ない者達の再訓練でもある。
この中間大陸の雰囲気を直に感じさせるというものも。
人間、見知らぬ場所では右往左往してしまう。
そういった事にならないよう、少しでも体験させるのも目的だった。
させられるタクヤ達にとってはたまったものではないだろう。
だが、この先この大陸で活動していくならば、避けては通れない事でもある。
一井物産としても、少しでも場に慣れた者を求めていた。
今後、更に多くの人間を投入するためにも。
素人同然の者達を少しでも引率出来るよう、最低限の知識や技術、体験は必要になる。
研修だけではどうしようもないのだ。
実際に仕事に従事している者達がいなければ、新人をどれだけ用意しても効果が薄い。
研修でならっただけではおぼえきれない事を、経験者が引率して身につけさせねばならない。
その為の人員作りをすすめている最中でもあった。




