94話 中間大陸における業務 5
護衛は自分だけでなく別の誰かを守る事に難しさがある。
そして、偵察はほぼ単独で遠方まで出る事に怖さがある。
人の目が届かない部分を探るのだから当然だ。
そして、遠出せねばならないから仲間からの支援も受けられない。
何かあった場合、その場にいる自分達だけで対処せねばならない。
もちろん偵察は目的地周辺を探る事が主任務である。
その為に、相応の観察眼や知識なども必要とする。
これらが偵察を困難な任務にしていく。
タクヤ達も偵察の経験は無い。
全く無いとは言わないが、皆無と言っても良い。
必要な知識や技術を身につけるための研修はしたが、それだけでしかないと言える。
実際に偵察を任されても全うする事は不可能と言えた。
「俺達はそういう程度なんですけど」
「それでもだ。
何も知らない連中を放りこむわけにはいかんだろ」
「そりゃあそうですが」
言いたい事は分かる。
頭数を揃えるだけで集められた連中には困難な事である。
タクヤ達程度の技量であっても駆り出さねばならないのだろう。
人手不足は深刻らしいという事を肌で感じる。
「だから、お前らには偵察任務に出てもらう。
これも仕事だ。
給料のうちだと思って諦めろ」
「……せめて手当くらいは付けてくださいよ」
「まあ、状況次第で多少は出るんじゃないかな」
言外に、あまり期待するなと言っている。
そんなもんだろうなと思って、ため息を吐く。
「戦闘になった場合の危険手当くらいは期待してもいいですか?」
「相手によるな。
ドラゴンとまではいかないまでも、大型のモンスターと戦闘にならないと」
「そんなの滅多に出てこないじゃないですか」
遭遇率の低い、そして遭遇したらまずいモンスターが相手でなければ特別手当も無いという。
言いたい事は分かるが、それでももう少し何とかしてもらいたいと思った。
結局、なんだかんだ言いつつもタクヤ達は偵察に出向く事になった。
会社の命令では逆らえない。
軍隊よりはマシとはいえ、会社も上意下達が基本である。
ただ、社員への報酬は無いに等しいが、持っていく装備については可能な限り供給するという。
さすがに危険な仕事に丸腰で放り出すという事はないようだった。
それだけが救いであろうか。
支給される装備の一覧を見て、それだけはありがたく思った。
監視・警戒用の機器に、それなりの武器。
燃料や食料だけでなく、こういったものも融通を利かせてくれるのはありがたい。
これを常に持ち歩ければと思うほどである。
さすがに会社と言えども、全社員(主に戦闘部隊)に支給する事は難しいのだろう。
こんな業務でないと使えないのが辛いが、それでも色々使えるのはありがたい。
また、さすがにタクヤ達だけで出向くわけではない。
偵察の為に編成される部隊に組み込まれる事になる。
一応数十人規模なので、それなりに余裕はある。
もっとも、これだけの人数と、相応の武装があっても、運が悪ければ全滅もありえる。
それがモンスター相手の怖い所だった。
出向くのが未開地というのも不安になる要素である。
切り開かれてない場所が多いので、不意打ちをくらう可能性が高い。
発見が遅れればそれだけで危険が増大する。
例え発見が早くても、木々などの遮蔽物があれば、銃撃をするのは困難だ。
今まで同じように注意が必要になっていく。
(嫌になるな……)
これが仕事と思って妥協するには危険にすぎるように思えた。




