89話 勤務地の変更 5
その大陸に新地道自治体は全力を投入しようとしている。
兵衛府の備えももちろん作り上げていくが、それも体制をととのえてからになる。
この二つを同時に進めるためにも、中間大陸の方は後回しにせねばならなかった。
一井物産がそこを開発するというのは、新地道自治体からすれば渡りに船とも言えた。
いずれ機能を拡張せねばならないとは思ってはいたのだ。
何せ、兵衛府との間の中継地である。
必要な機能を整備せねばならなかった。
それを一時的にでも後回しにするのは、今後を考えれば大きな後退であった。
だが、一井物産が進めていくなら、これほどありがたい事は無い。
その分一井物産の発言権が高まるが、それもまたやむをえないと諦める事になった。
今はまず新地道本土の方が先なのだから。
役割分担をする形になった一井物産による中間大陸の開発。
その為の第一陣は、兵衛府での戦闘が終わってから半年後となった。
集められた部隊が輸送船に乗り込み、現地へと向かっていく。
同時に、それらの宿舎などを建築する者達と資材も。
自家発電装置、水の濾過器なども含め、様々な物を乗せた船団が中間大陸へと向かう。
その周囲に護衛艦艇を連れて。
「壮観だな」
船上で前後を眺めてるタクヤの感想である。
前後にならぶ客船・輸送船の数々を見てるとそう言うしかない。
そのどれもが、物を運ぶ事を第一に作られた、飾りのないものである。
機能性は感じられるが、見た目に優美さなどはない。
物資を運ぶ輸送船はもとより、人員を運ぶ客船ですらもだ。
むろん、豪華客船による遊覧観光などが出来るとは思ってない。
しかし、本当に人を運ぶだけと言えるほど飾りの少ない客船であった。
個室などはなく、ほとんどが数人の相部屋。
しかも、二段ベッドなどで狭い部屋が更に狭くなっている。
食堂やトイレ、風呂などはあるが、プールやホールなどは存在しない。
大分馴染んでしまった戦闘部隊用の宿舎そのものといった風情だ。
それをそのまま船の中に持ち込んでるようだった。
そんな船であっても、幾つも並んでいると様になるものだ。
「これでもうちょっと居心地がよければいいんですけどね」
「まったくだな」
同じ部隊として一緒にやってきたタダヒロの言葉に頷く。
いくら機能重視とはいえ、もう少しくつろげる構造にならないものかとは思う。
一人でも多く乗り込む事を考えてなのだろうが。
「折角のクルーズなのになあ」
「これをクルーズというのには抵抗がありますけどね」
正確にいうなら、人員輸送であろう。
その方が実態に近い。
「到着するまでの我慢か」
「まあ、のんびりしてましょう。
上陸したら、それどころじゃないでしょうし」
「そうなんだけどさ」
言いながら自分の乗ってる船を振り返る。
遊ぶ施設のない、おもしろみのない船である。
「……ここでくつろぐのも、かなり難しいぞ」
「まあ、そうなんですけどね」
タダヒロもそれは否定出来なかった。
「けど、どうなるんですかねえ。
上陸して周辺の偵察って事になってますけど」
「そんなにモンスターも出て来ないとは言ってるけど」
事前に渡された情報をもとに、二人はそんな事を言っていく。
「これから先はどうなるか分からないよ」
「全くですね。
奥まで進めば、それだけモンスターとの遭遇も多くなるでしょうし」
「それに、防衛も機械任せってわけにはいかないし」
電力の供給が足りないので、自動で動く機銃座などは当分設置出来ない。
一応発電機などは持ち込む予定ではあるらしいが、それも先の事になる。
暫くの間は、人の目による監視が必要不可欠だった。
「ここに来て、一気に色々後退したような気がするよ」
「なんだかんだ言って、兵衛府は備えていた方だったって事ですね」
「そうだな」
自動機銃座や、様々な監視装置の存在。
それらがあった分だけ、兵衛府はかなり防備に力を入れていたと分かる。
これらを動かす事が出来るだけの設備も含めて。
それに比べれば、これから向かう中間大陸は、まだまだ発展途上なのだと思わせた。




