8話 異世界の現状 3
そのまま続くならば、双方共ににらみ合いで終止していくであろう。
だが、それがそうならない可能性が出てきていた。
人類としては、次々に繰り出してくる敵をたたきたい。
その為に、敵の生産拠点を叩きたい。
そう考えていた。
だが、前線が突破できないのでそれも出来ない。
航空爆撃によって幾らかでもそれを実行しようとするも、まず爆撃に使える機体がない。
輸送機などを改造した爆撃機の製造も考えてるし、実験機としてそれも作られてはいる。
しかし、量産するとなると生産力の限界という壁が立ちはだかる。
割り振れる予算の限界もある。
戦争だけをしていれば良いわけではない。
いまだに開拓は続行されている。
そちらを蔑ろには出来なかった。
そちらに割り振らねばならない生産力を考えると、これ以上軍備に力を注ぐのも難しかった。
勢力圏が増えて、生産力があがれば、更なる増産も可能になるだろう。
だが、それまでには時間がかかる。
土台となる人口の増加を待つにしても、最低でも十数年はみなければならない。
高度な知識や技術を必要としない労働であっても、生まれてから十数年は経たねば使えない。
その間に、充分に養育され、適切な教育を受けているという条件もつく。
これは単に衣食住など物理的に必要なものだを与えるという意味ではない。
優しさや慈しみや愛情と呼ばれるものをしっかりと与えてるというのが土台にある。
何にせよ、こういった者達が更に増えねばどうにもならない。
自動化・機械化による省力化・少人数化があっても、最低限必要になる人数はある。
それらを揃えるためには、どうしても時間が必要になる。
だが、敵はそうではなさそうだった。
観測した結果からの推測であるが、敵は生産設備があれば量産が可能であるらしい。
大穴周辺の施設が拡大するにつれて敵の数が増えている。
生物や人間のように成長するまで時間がかかるという事はないらしい。
少なくとも、表に出て来てる者達を見る限りでは、短時間で大量生産がされている。
このままいけば、確実に前線が突破される。
兵器がどれほど優秀でも、大量の敵を倒す事は出来ない。
100発の銃弾を全て命中させても、101体以降の敵を倒す事は出来ない。
こちらが用意出来る武器以上の数が押し寄せれば、確実に負ける。
それだけの事である。
敵にはそれが出来るだけの数を用意する能力を持ちつつある。
さすがにこの事態を見て、長距離から生産設備を攻撃する方法が考えられていった。
他の武器の製造を一旦止めてまでも、爆撃機などの開発・量産に踏み切っていく。
長距離ミサイルなどの開発も考えられていく。
これらが勢力の均衡を続けてるうちに達成されるかどうかは分からない。
しかし、このまま打開策もないまま事を進めるわけにもいかない。
多少後手に回ろうとも、準備は進めていかねばならない。
ただ、これらがしっかりと数を揃える前に敵が動き出したら、対処のしようがない。
戦線の崩壊は確実で、そのまま兵衛府まで押し寄せられる可能性がある。
もし、兵衛府を制圧されてしまえば、航空爆撃どころの話しではなくなる。
航続距離を考えても、最低限兵衛府から離陸しなければ敵に接近も出来ない。
それとて、途中で空中給油を行っての話しだ。
もし兵衛府がなくなれば、それこそ打つ手がなくなる。
当たり前だが、飛行機は地上から離陸しなければならない。
その為の空港である。
敵の大陸に存在する空港は、兵衛府にしかない。
地面をならして応急的に作った飛行場もあるが、それらは離陸距離が短い小型飛行機の発着がせいぜいである。
大型の飛行機が発着できるのは兵衛府だけである。
ここの防衛は、現状維持の為にも絶対になさねばならなかった。
その為に、兵衛府にいる者達には過酷な重圧がかけられていく事になる。
前線勤務だけではない。
それを支える後方勤務にも等しくその負担はかかっていく。
望む望まないに関わらず、今後の戦争の推移を良好なものにするために。
でなければ、巻き返しに更に多くの労力と血と命が求められてしまう。
否応などを言ってる場合ではなかった。
そしてそれらは、末端で働いてるタクヤ達にも押し寄せる。
日々の作業に比較的安全な兵衛府や基地付近での作業が減っていく。
輸送の護衛も、危険地帯近くまで伸びていく。
支給される武装も少しずつ強力なものが増えていった。
これらは班員一同が様々な研修に出ている事も影響していた。
対戦車・対物用のロケットランチャー(バスーカ)や無反動砲の扱いなどをおぼえてる者は少ない。
それらの研修に出向いた者がいるのが、タクヤ達に強力な火器が行き渡る理由になっていた。
同時に、それだけの火力があるのだから、危険な仕事もしろという話になる。
これに加えて、タクヤが戦術関係の講習を受けていた事も影響をしていた。
もともとは、敵に出会った時に上手く逃げれれば、という消極的な発想で受けていたものだ。
襲ってくる敵を効果的に撃退し、逃げる隙を作るためである。
だが、敵との戦い方を学んでる事に変わりはない。
集団戦のやり方を多少なりとも理解してるならば、それなりに危険な作業にも従事してもらおうという事にもなる。
加えて、前線で作業をしていた森山の存在もある。
多少なりとも経験してる者がいるというのは、それだけで強みになる。
また、班内での年長者という事もあり、それなりに人生経験もあるのだろう。
うまくまとめ役をこなしている。
タクヤの補佐役として自然と副長といった立場におさまっていった。
これらがタクヤ達を前線に押し上げていく事となっていった。
タクヤだけではない。
全体的に前線よりの配置になっていく。
前線に回される人員も多くなっている為だった。
本来、後方要員でしかない者達まで戦場に駆り出されるになっている。
それだけ前線が大変な事になっていた。
22:00に続きを出す予定