88話 勤務地の変更 4
余談ではあるが、本国企業が新地道に新人の募集に出向いてくる事は珍しくもない。
なのだが、これはあまり芳しい成果をあげてない。
給与などが新地道より低い事が多いからだ。
税金や社会保障費として取られる分が多く、手取りがどうしても少なくなる。
また、新地道に比べれば過密状態の本国である。
家賃なども高く、それだけで生活費が嵩むことになる。
その他の諸々の諸経費を差し引くと、手元に残る金は少なくなってしまう。
それを身を以て知った者達が、その事を新地道に伝えていった結果だ。
モンスターなどの危険は少ないとはいえ、手取りが減っては意味がない。
もともとモンスターの危険と隣合わせの新地道出身者は、それを大きな問題とはとらえもしない。
結果、手に残る給料などの待遇に目を向けていく。
単純にそれを比較し、だったら新地道の方がいいと戻ってくる者が後を絶たない。
本国に残るのは、それこそ各起業や官公庁などでそれなりの出世街道にのった者くらいである。
そんな事情もあって、新地道の住人は基本的に新地道にて就職する。
本国と違い、子供が多く産まれるてくるので、将来的な労働力が減る心配もない。
なのだが、それでも必要な人数が足りないのだ。
それだけ広範囲に開拓がなされていて、各地で更なる増員が求められていた。
そんな中で一井物産は、中間大陸の開拓開発に乗り出そうというのだ。
物資もそうだが、人手を集めるのに難航するのも当然である。
そんな中、当面必要になる施設の建造に焦点を絞り、計画が練られていく。
港湾を中心とした町を建設し、そこに必要な電気やガス、水道などを作っていく。
比較的近くの資源地帯までの道を切り開き、それを加工する工場まで持ち帰る。
港湾施設の拡大も進め、荷物の積み卸しを円滑に進められるようにしていく。
人員を養うための農場も建設していく。
その為に必要な治水・灌漑設備の建造も考えねばならない。
最低限とはいえ、それでもかなりの規模になっていく。
だが、それでもまだ、求める水準には遠い。
開拓の、人が住む場所を作るという事の難しさである。
何よりも、たんに人が住む場所を作る事が目的ではない。
それも求めてはいるのだが、今はそれよりも増産が目的である。
兵衛府に比較的近く、攻撃される危険もそれほど大きくない。
そんな場所に生産拠点を造り、敵を撃退するための備えとする。
新地道から中間大陸の開発を一任されてるのは、これが理由だ。
その間、新地道自治体からの支援は無くなる。
完全に無くなる事はなくても、現時点よりも支援は少なくなる。
その間に新地道自治体は他に予算を割り振り、開拓や開発を進めていく予定になっている。
自治体は自治体で、地球に続くトンネルのある新地道本土とも言うべき大陸の開発に専念したいのだ。
その大陸だって、まだ開拓や開発が完全に終わってるわけではない。
ユーラシア大陸と同等と言われるほどの広さがあるのだから当然だろう。
そんな所に、たかだか1000万人程度の人間しかいないのだ。
手つかずの地域があるのが当たり前だった。




