85話 勤務地の変更
とはいえ、それも勤務先に戻れば終わる。
兵衛府に戻ればいつも殺伐とした雰囲気の中に入っていく事になる。
緊張が絶えることのないその場にいれば、自然と警戒心も働いていく。
これが中学卒業後、研修期間を除けばほとんどを過ごした場所である。
そう考えると、壮絶なものがあるなと思った。
(よく生きてたのよなあ……)
死ぬ事もなく今まで生きていたのだから運が良い。
実際には、不意打ちでもなければモンスター相手に死ぬ事はそう多くはない。
たいていは銃器で撃退可能だからだ。
だが、それでも常に周囲を警戒してねばならず、気が抜けない。
天使が攻め込んできてからは、危険度は更に跳ね上がっている。
気持ちを張り詰め続けるのも無理な話だが、変に気を抜けばその瞬間に死ぬ。
それが当たり前なのがこの場所だ。
(すげえ職場だよ)
自分が務めてるこの場所は、考えてみればまともではないなとあらためて思った。
そしていつも通りの業務に戻る……と思っていた。
しかし、復帰したタクヤには移動の辞令が下る。
「いったいどこに?」
「中間大陸だ」
そう言う上司の言葉に驚く。
兵衛府の途中にある中継地点である事は知っている。
しかし、開拓もまだそれほど進んでおらず、本当に中継地としての役割しかないと場所だ。
そんな所に移動していったいどうするのかと考えた。
「何かあるんですか、そっちで?」
「分からん。
ただ、かなり大がかりな移動でな。
ここの部署全部がそっちに向かうって話だ」
それを聞いて更に驚いた。
部署全体というのがどこまで及ぶのかは分からない。
タクヤが所属する部隊だけなのか、ここにいる一井物産の部隊全部なのか。
何にせよ、半端な数ではないのは確かだ。
それが移動するというのだ。
かなり大がかりなものになる。
「そんだけ移動して、何をするんですかね」
「さあな。
けどまあ、俺達が行くなら、やる事は一つだな」
言うまでもない、という調子の上司。
それを聞いてタクヤも、それもそうかと思う。
タクヤ達の仕事は戦闘である。
それらがやる事と言ったら一つしかない。
「なるほど……」
明確には示されてないが、タクヤも中間大陸での仕事を何となく理解した。
脅威からの護衛。
奥地に進んでの偵察。
それらが必要となる、開拓。
戦闘部隊の仕事の範囲は限られる。
発見されたモンスターの駆逐か、重要拠点や輸送対象の護衛だ。
これらが必要になる、それもかなり大がかりなものとなれば、開拓に他ならない。
ならば中間大陸で何があるのかは明白だ。




