83話 久しぶりに家に帰りはしたものの 5
天下に名だたる一井物産なのだから、充分に大手を名乗れる。
もっとも、その末端にいるのだから、それほど偉そうに会社の名前を出せる身分でもない。
まして汚れ仕事の護衛部隊だと、本社勤務などより格下に見られる事もある。
業務内容が軽く見られてるというわけではない。
人員の消耗が激しく、常に人を募集しており、その採用条件がかなり緩いからだ。
自然と、素行のよろしくない者達でも入れるようになる。
犯罪歴があったならともかく、荒くれが多いのは確かだ。
また、最低限の規律を守る事すらあやうい者もそれなりにいる。
求められる能力の水準を満たしてない者だっている。
その為、社会の落伍者の行き着く先ととらえられがちだった。
必要な作業だし、いないと仕事が滞る事にもなる。
だが、こういった理由があるために、一井物産勤務と言っても素直に評価されない事が多かった。
そんな事を考えてるタクヤに、
「だったらさ。
そういう所で働くためにどうしたらいいのかとか教えてよ」
などと無茶を要求してくる。
「いや、教えるって言ってもな……」
「でも、少しくらいいいでしょ。
企業秘密とかいうのまで教えろとは言わないから。
雰囲気みたいなものでもいいからさ。
普段どんな事してるとか、周りの人の雰囲気はどうなのかとか」
「いや、それもな……」
企業秘密で無いにしても、伝えて良いの悩む事であった。
素直に、「歩兵銃を持ってモンスターや別の世界の機械と戦ってます」と言うのはどうなのかと思う。
それはアマネが務めるであろう、まっとうな勤務の参考はならないと思えた。
同僚の性質やそれらが生み出す職場の雰囲気も、いわゆる社内勤務とはかけ離れたものであるはずだ。
なので、
「教えるほどたいそうなもんはないぞ」
適当に誤魔化して相談をうやむやにしようとした。
「えー、ケチだな」
「いや、俺の仕事は余り参考にならないから。
内勤とは違うし」
ある意味、メチャクチャ大きな外回りと言える。
社内にいる時間はほとんどない。
それに雰囲気そのものが社内の他の部署とも違う(と思われる)。
なので、アマネが求めるような何かを提供出来るとは思えなかった。
「真面目にやってればいいとは思うぞ、たぶん」
「あんまり参考にならないんだけど」
「俺にそんなの期待するな」
求められても困ってしまう。
「でも、最前線勤務なら厳しいもんがあるだろうな」
「うわあ、やっぱり……」
アマネは露骨に顔をしかめた。
「話には聞いてたけど」
「まあ、最前線だからな」
この異世界における常識にはなっている。
最前線勤務と呼ばれる開拓を担当する部署は、とにかく厳しいという事は。
何かしら肉体労働になるので体力的に厳しい。
そして、とにかく納期が厳しい。
更に言えば、いつ襲ってくるか分からないモンスターがいる。
銃器があれが撃退可能であるが、そうでなければ人間が対処出来る相手ではない。
これらもあって、最前線勤務は激務と知られている。
この近隣にはそういった仕事に従事してる者もいるから、実態も他より正確に伝わってもいる。
だからこそ誰もが敬遠をしていた。
とはいえ、採用される大半がそういった最前線の開拓地勤務である。
これもまた良く知られる事実であった。
「私もそういう所に行くんだろうし」
「多分そうなるだろうな」
中卒となると、そうなる可能性が高いのは否定出来なかった。
「まあ、そうなったらよろしくお願いしますね、先輩」
「はいはい。
そうなったらな」
いったいどうしろというのか分からないが、適当に答えていく。
実際、所属部署が違ったら何もしてやれる事はない。
そして、タクヤのいる部署にアマネが配属される可能性は極めて低いだろう。
同じ会社にいたとしてもだ。
もしアマネが別の会社に勤務するとなると、それこそ接点は無くなる。
してやれる事は何もない。
「愚痴にくらいは付き合うよ」
せいぜいそれくらいである。
もっとも、連絡先を教えなければ、それもこの場をしのぐための言葉にしかならない。
それはアマネも分かってるのか、
「じゃ、連絡先を教えてね。
あとで絡みにいくから」
「平和な内容なら大歓迎だ」
「ケチー」
「何がだ」
そんな事を言いつつも、メールアドレスを交換していく。
もっとも、タクヤはほとんど使ってないが。
何せ仕事が忙しい。
アマネが本当に連絡を入れてきても、対応する余裕があるとは思えなかった。




