82話 久しぶりに家に帰りはしたものの 4
「でも、仕事で家を飛び出したって聞いてたけど。
こっちに戻ってきたの?」
「いや、単なる帰省。
何日かしたら、また仕事だ」
「へー、大変だ」
「まあな」
会計をしながらも近況を話あう。
「こっちももう中学校卒業だし。
進路も似たようなものになっちゃうかな」
「就職か?」
「まあね。
ここは兄ちゃんが継ぐ事になってるし」
上に兄弟がいて、家が仕事をしてる場合、たいていそうなっていく。
下の子は他で食い扶持を探すのが普通であった。
例外はあるが、概ねそれが常識となっている。
そして、中学卒業で働きに出るのも、それほど珍しくはない。
求人は多く、企業は一人でも多くの人間を確保しようとつとめている。
もちろん、それなりの学歴がある者が優先されるが、中学卒業であっても引く手は多い。
高望みしなければ、それなりに働き口はあるものだ。
「やっぱり地元に務めるのか?」
「ううん。
大きい所に入る事が出来てね。
春から研修だって」
「研修か……」
「うん。
最低でも一年くらいは勉強みたいになるって聞いてる」
「じゃあ、本当に大手なんだな」
話を聞いて少しばかり驚いた。
企業の規模ややり方にもよるが、研修を長目にとるところはたいてい大手だ。
おぼえる事が多いし、その分事前の教育期間がどうしても長くなる。
それに、中学卒業などの本当に若い者には、高校代わりに長い期間の研修がなされる事もある。
実質的にそれは専門学校のようなものだった。
その企業に合わせた教育をするための。
ただ、そんな研修を行える企業は限られる。
やはり大手でないとそこまでやるのは難しい。
アマネの研修期間からしても、そこそこ大きな所に入ったのは間違いないが伺える。
「やったな」
「うん、色々頑張ったから」
「いや、単に人手不足だからだろ」
「もー、そんな事言わないでよ。
やる気無くすでしょ」
「はいはい」
適当にあしらいながらも、アマネがそれなりの所に入れた事を喜んでいく。
慢性的な人手不足なので、入ろうと思えばどこにでも就職は出来る。
それでも、待遇が少しでも良い所に入る事が出来ればそれに越した事は無い。
「まあ、あとは頑張って仕事するだけだな」
「うん。
どんな仕事になるのか分からないけど」
「まあ、女の仕事となるとな」
基本的には内勤、事務作業が基本になるはずである。
あるいは雑用。
主にお茶くみなどと呼ばれる諸々である。
女子に限った話ではないが、高校や大学卒業者でなければそうなる可能性が高い。
「やっぱり、大変なのかな?」
「どうだろ。
ただ、最前線勤務は無いとは思うけど」
男の場合だとこちらになる可能性が極めて高い。
それか、単純作業になる。
だからこそ、タクヤのようにモンスターとの戦闘などに放り込まれる事はないはずである。
仮に最前線だとしても、拠点となる基地の勤務になるはずである。
戦闘は基本的に男の仕事であった。
体力的に男でないと厳しいからだ。
それと、男女混合だと色々と手間もかかる。
同じところで着替えたり、一緒に風呂に入るという事も出来ないのだから。
たったこれだけの事で、部隊行動の効率を大きく落とす。
また、用意する諸々の手間も増えてしまう。
どうしても性別で分けて扱わねばならなかった。
「でもまあ、どこにいても頑張らなくちゃならないのは変わらないけどな」
「クビにされないように気をつけます」
真面目ぶってそう言うアマネは、
「そういや兄ちゃんも大きな所で働いてるんだよね」
と聞いてきた。
「まあ、大きいって言えば大きいのかな?」
幾分返答を濁しながら答えてしまった。




