80話 久しぶりに家に帰りはしたものの 2
馬鹿な事を考えてるうちにコンビニに到着する。
数年ぶりであるが見た目に変化は無い。
記憶の中の姿とほぼ同じである。
商品の品揃えは少し変わったかもしれないが。
(いや、数年でそう大きく変わる事もないか)
世の中、変化というのはそう簡単に起こるものではない。
数十年もすれば何かしら変わるものもあるだろうが、五年くらいでは目に見えた変化はそうそうあらわれない。
開発著しい地域ならともかく、タクヤが生まれ育った町はそうではない。
かつては開拓の最前線として、現在も新しい開拓地への中継地点として人や物の出入りは激しいが。
しかし、行き交う車の流れが大きくても、それが町の姿形に変化をもたらす事も無い。
なんだかんだで落ち着いてきてるのだろう。
開発から遠ざかったと言えるかもしれないが。
(落ち目って事はないだろうけど、これ以上変わる事もないんだろうな)
おそらく、今のままでこの町は続いていくのだろうと思った。
今ここにいる者達が世代を重ねていく事で。
大きな変化もなく、見知った者達同士で町を作っていく。
それが当たり前になっていくのだろうと。
(……いや、そんな事より飲み物と食い物を)
頭に浮かんだ妙に感傷的な考えを振り払い、現実に戻っていく。
俗物的な欲求を思いだし、それを満たすものを求めていった。
「あれ?」
店に入った瞬間に、店員に声をかけられた。
「立橋の兄ちゃん?」
「ん?」
昔懐かしい呼び方に足を止める。
誰だと思って目を向けると、見覚えのない女の子が立っていた。
制服を着てるのでバイトか何かだろうとは思うのだが。
「……誰だっけ?」
何となく見覚えがあるように思えるのだが、誰なのか思い出せない。
おそらくタクヤと同じような年代だとは思うのだが。
(同級生とかに、こんなのいたっけ?)
小学校と中学校でそれなりに接点のあった女子を思い出してみる。
しかし、目の前の店員に該当する人物はいなかったと思った。
タクヤの記憶が曖昧なだけかもしれないが。
(女子の知り合いも少ないし)
幼なじみと言える者はそれなりにいるが、残念ながらそこに女子はそう多くはない。
子供の頃はともかく、ある程度成長すると男女で一緒にいる事が減っていったからだ。
仲が悪くなったわけではないが、男女の違いが出てきたためだろう。
何となく互いに避けるようになった。
というか、男子は男子同士で。
女子は女子同士で固まるようになった。
教室が同じでも、どうしても接点が少なくなっていった。
それでも、男女問わずに仲良くやってる奴もいたりはしたが。
タクヤはそういう性質ではなかったので、ご多分に漏れず女子とは疎遠になっていた。
(モテナイってのもあるんだろうけど)
寂しい事も思いだす。
何にしても、目の前の女の子について全く何も思い出せないのは確かだった。
だが、相手はそうではないらしく、タクヤに親しげに接してくる。
なれなれしくならない程度に。
「仕事で遠くに行ってるって聞いてたけど。
こっちに帰ってたんだ」
「ああ、まあな」
「で、今日は買い物?」
「もちろん。
でなけりゃ、わざわざここまで来ないし」
「それもそうか。
ご来店ありがとうございますだね」
「なんか、わざとらしいな」
「そりゃあそうですよ。
お客様ならそれなりの態度をとりますから」
「あざとくないか、それ」
「こんなもんだって、バイトの店員なんて。
少しでも来店回数を増やしてもらって、一円でも多く買ってもらうためならね」
「はいはい、分かったよ。
財布の余裕はないけど、売り上げに協力しますって」
嘘である。
給料はそれなりに良いし、使う暇がないので金はそれなりに貯まってる。
財布そのものに現金がそれほど入ってないだけだ。
銀行の預金残高にはそれなりの金額が預けられている。
それを伝える必要もないが。
(でもま、少しくらい余分に買っていくか)
財布の中に放り込んでる金に負担がかからない程度には。
あまり無駄に使わないように、持ち歩く現金は控えているのだが。
(ご近所の売り上げくらいには協力してやるか)
これも近所づきあいである。
それに、コンビニが潰れてしまったら、タクヤも困る。
地元にいないので利用する事はないが、帰ってきた時に無かったら面倒な事になる。
このあたりにコンビニはここにある一軒しかない。
無くなったら少し離れたスーパーまで買い物に行かねばならなくなる。
それは面倒だ。
そうならないように、多少は多目に物を買っていこうと思った。
「まいどあり」
少女店員の声がそらぞらしく響く。
そんな彼女に肩をすくめて見せて、菓子やジュースが並んでるあたりに向かっていく。
「あ、でも」
タクヤの背中に少女店員が声をかける。
「私が誰だか分かってないよね?」
話を合わせていたが、どうやらバレバレであったようだ。
「たまに帰ってきたらそれなの?」
「え?」
「本当にしょうがないわね」
ため息を吐きながら、少女は言葉を続ける。
「この店、私の家なんだけど」
「え……って事は」
それで記憶の中の情報と目の前の少女が照会されていく。
該当する人物には心当たりがあった。
タクヤの幼なじみの一人と。
「アマネか?」
「そうよ。
忘れてたの?」
タクヤより四つ下の幼なじみは、そう言ってふくれっ面を作った。




