79話 久しぶりに家に帰りはしたものの
そんな開発が始まろうとしていた頃。
立橋タクヤは実家に帰省していた。
兵衛府防衛戦の後、どうにか有給休暇を使って得た休日を利用して。
戻る理由は特に無かったのだが、父親に言われた事が気にはなっていた。
やはり、一度くらいは顔を出した方が良いかと。
それに、今後忙しくなるという話も聞いていた。
中間大陸の開発に社をあげて取り組むとは聞いていた。
そうなれば、今まで以上に忙しくなるとも。
新地道各地から、中間大陸に人が集められてるとも聞く。
タクヤ達もそうなる可能性が高く、そうなれば休暇もまともにとれるかどうか分からない。
ならば、という事で移動が言い渡される前に、一度実家に顔を出しておこうという事になった。
「本当に」
戻ってきた家で、母は呆れた顔をした。
「出ていったきり、連絡もよこさないと思えば」
「…………」
「いきなり帰ってくるんだから」
「…………」
「本当に、そういう所はお父さんそっくり」
「…………」
「ま、生きてたならそれでいいけど」
「…………」
母の言葉に何も言えないまま、タクヤは今で正座をしている。
生まれ育った家の畳敷きの居間は、家を出たときと変わることのないたたずまいである。
そこに座りながら、妙に居心地の悪さを感じながら母のぼやきを聞いていった。
言いたい事も色々あるのだろうと思い、特に反論もせずに聞いていく。
だが、じわじわと締め上げていくような言い方には冷や汗が出てくる。
(早く終わってくれないかな……)
もうすぐ二十歳になろうというのに、母の圧力にかなわない。
その事が少々情けないと思った。
そんな母からようやく解放され、近所をぶらつく。
目的ややる事があるわけではない。
手持ちぶさただったので、近所のコンビニまで行こうとしただけだ。
適当な飲み物や菓子でも買ってこようと。
そうでもしないと時間をもてあます。
(本当にやる事がないな……)
帰ってきたはいいが、暇でしょうがなかった。
友人などがいないわけではないが、時間が合わないのであまり顔も合わせてない。
連絡も入れてなかったので、一緒にどこかで会おう、という事にもならない。
今からメールを送ればいいのだろうが、そうするのも億劫だった。
気が引けてるというのもある。
友人知人も就職か進学してる頃である。
それなりに忙しいだろうし、そんな所に連絡を入れても面倒だろうと思った。
なまじ社会人をやっているせいで、そういった事も察してしまう。
(まあ、ばったり出会った時に挨拶でもすりゃいいか)
結局そんな所に落ち着いた。
その為、やる事もなく家でごろごろと寝転んでしまう。
ある意味、休暇を満喫してると言えた。
人生の無駄遣いとも言えるが。
帰ってきてからまだ一日であるが、そんな怠惰な生き方をしている。
実家だからという安心感のせいだろうか。
なんだかんだ言いつつも母が食事を作ったり家の中の事を片付けてくれるおかげだ。
一人暮らしだから、そのありがたさが良く分かる。
だからと言って実家に帰りたいとはこれっぽっちも思わない。
(一人でいる方が気楽でいいよ、やっぱり)
どうもそういう性分のようで、他の誰かと一緒というのが窮屈に思えてしまう。
一人っきりの寂しさというのもあまり感じない。
むしろ、他に誰もいない方が落ち着く。
(でもまあ、彼女は欲しいか)
他人との接点が欲しいというのも、せいぜいこのくらいの欲求があるだけだ。
色欲まみれであるのは否定のしようがない。
悲しいかな、そういった方面での出会いは無い。
晩婚になってしまった親の遺伝子を引き継いでるからだろうか、などと考えてしまう。




