78話 富国があって強兵が達成出来る 5
不平や不満が噴出しないよう、様子を見ながら事を進めていく。
新地道自治体の動きは概ねそのようなものだった。
迂闊な事をしないように慎重に、無駄が出ないように頭を使いながら。
でなければ、しなければならない事を何一つ達成出来なくなる。
そうなれば、この世界においての滅亡が決定してしまう。
日本本国に帰る事も難しい。
既に人口2000万になろうとする異世界の住人を収容する場所がない。
仮に居場所があったとしても、仕事なども無い。
生活に困窮する者達がその数だけ発生するだけである。
そうなれば、日本本国としては、異世界からの帰還者を押し返す事もありえる。
同じ国民と言えども、より多くの者達を守る義務が政府にはある。
例え同胞であっても、本国の人間を守るのは当然となる。
新地道の者達は異世界での生活を守るしかないのだ。
その為にも産業を確立していくしかない。
必要な資源や製品を作り出すために。
人々の食い扶持を確保するために。
不平や不満が発生しないよう気をつけながら。
面倒で無理や無茶と隣り合わせの舵取りとなる。
それをこなさねばならないのだから、新地道自治体の中枢も大変である。
だが、さすがに新地道の人間も事の次第は分かっている。
ここで手を抜けば、将来の自分達が悲惨な目にあう事は分かっている。
多少の無理や無茶は覚悟はしていた。
産業を発展させていかねば、自分達が危うくなるのだと。
倒れるまでの無理はしないまでも、可能な限り仕事を前倒しで達成しようという意欲はある。
その為、新地道自治体が心配するほどの不満や鬱屈が出て来る事はなかった。
賃金未払いや過剰労働などはさすがに問題にはするが、やらねばならない仕事を拒否するような事はなかった。
どのみち、産業がなければ困窮する。
生活の為に仕事はせねばならない。
それを理由に労働を強制されるつもりはない。
だが、生活の為にせねばならない義務まで放棄はしない。
このあたり、背負うべき責任は心得ていた。
その為、自治体中枢が考えた産業の発展はほぼ予定通りに進んでいった。
概ね前倒しで目的の水準を達成しながら。




