72話 兵器開発事情 5
そして、艦船も異世界に合わせたものが建造された。
別大陸に進出するにあたり、海洋モンスターに対処する必要が出てきたからだ。
当初はそれも、商船に武装を搭載して対処していたのだが。
やはりそれだけでは必要な性能を手に入れる事は出来なかった。
それでもモンスター相手には充分な戦闘は出来たが、どうしても無理や限界が発生した。
その為、地球の戦闘艦艇程ではないにしても、戦闘に適した艦船が求められた。
ただ、戦闘力においては地球の艦船ほど大きなものは求められてはいない。
特に対艦ミサイルや対空ミサイルなどは不要といえる程であった。
これらは様々な意味で過大すぎるのである。
性能も値段も。
モンスターを相手にするには割に合わない。
まず、性能であるが、射程距離が長い。
これ自体は良い事なのだが、モンスター相手だと長い射程をもてあます。
新地道における艦船の役割は、輸送船の護衛である。
こちらからモンスターを探して積極的に倒す事では無い。
将来はそうした事も行うかもいしれないが、現時点においてはそこまでする必要がない。
するだけの余裕もない。
なので、長射程のミサイルで遠くからモンスターを撃破する必要がない。
接近してきたモンスターを撃退する事が出来ればよい。
そして、それだけならミサイルを使うまでもない。
艦砲や対空機関砲で充分であった。
また、ミサイルを使うと一発あたりの値段が高くなってしまう。
誘導能力や射程は確かに魅力的なのだが、それをモンスター相手に用いるのはもったいない。
確実に仕留める事が出来るのは大きいのだが、これを使いまくってしまうと財政が破綻する。
それよりは、まだしも値段の安い砲弾を用いた方が経済的であった。
更に言えば、相手がいる場所も関わってくる。
海のモンスターは基本的に海中にいる。
なので、海上の艦船を攻撃する対艦ミサイルや、空の敵を狙う対空ミサイルは使えない。
それらではなく魚雷を用いねばならない。
爆雷でも良い。
海中を攻撃出来る兵器が必要になる。
潜水艦に対応するように。
必然的に、海中用の戦闘艦が造られて行く事になった。
海中を見張るレーダーを備え、海中用の魚雷や爆雷を搭載していった。
空からの迫るモンスター用に対空レーダーも備えた。
それらを攻撃するための、対空機関砲はやや大目に搭載された。
念のために小型の対空ミサイルも少しだけ。
それと、念のために艦砲も一応設置された。
もしかしたら、使う事があるかもしれないという事で。
これらに加えて、艦船のほとんどには航続力と居住性が求められた。
大陸間を移動する事になるので、それにあわせた航海能力が必要になるからだ。
最低でも数千キロの移動力がないとどうしようもない。
その為の、燃料をや居住空間を取れるように、比較的大型の体を持つ艦船となっていった。
また、極力少数で動かせるように自動化がおしすすめられた。
人数が少なければ、居住空間が少なくて済むからだ。
もとより人手不足の新地道のこと、なるべく人数をとられないようにせねばならないという事情もあった。
この結果、作られた艦船は30人もいれば運用できるほどになった。
もっとも、交代要員も必要なので、実際には100人近くの人数が乗り込む事にはなるのだが。
それでも艦船の運用人数としては少ない方である。
また、建造にあたって手間がかからないよう、極力単純な形状にされていった。
出来るだけ早く、手間をかけずに作る為に、形状は単純なものになった。
下手に複雑な工程を増やさず、手軽に数を揃える事が求められた結果である。
性能よりも生産性を、そして必要になる機能はしっかり組み込むように。
新地道において求められたのはこれである。
性能が高くても、建造に手間取るようではどうしようもない。
必要な機能は備わっていないと困るが、当面不要な部分まで盛り込む必要は無い。
だが、武装の追加も必要になる事も踏まえて、それなりに大きな船体を。
何はなくとも、とにかく安く簡単に手に入る艦船が必要で、それだけを作り出した。
このあたり、第二次世界大戦において日本が建造した松型駆逐艦に似ている。
実際、異世界における艦船建造にあたって松型駆逐艦が参考にされた。
実際の性能や形状はともかく、開発における根本的な概念などは踏襲している。
そして、この建造された艦船には、それにちなんで松型と名付けられていく。
ただし、艦船の種類は駆逐艦ではなく護衛艦となった。
自衛隊の艦船区分にならったわけではない。
用途が輸送船団の護衛だからである。
松型護衛艦────これが新地道が保有する艦船となった。




