62話 今後の展望について、企業における苦悩 3
「もう躊躇ってる場合じゃない」
今後も兵衛府で業務を行うならば、絶対にこれらの装備が必要になる。
全部隊に配備する事は出来なくても、ある程度の数は求められる。
そこそこで良いから、火力と装甲を持つ車輌が。
「けど、そんな都合の良い物があるのか?」
問題はここだった。
戦闘を主眼においた装甲車両は存在する。
それこそ自衛隊に配備されてる車輌がある。
だが、それらは企業からすれば使い勝手に問題があった。
一般的に装甲車と言われるものは、企業が使うにしては大きすぎるし値段も高い。
維持・整備も手間がかかる。
火力や装甲は充分だが、さすがにもてあます。
一般車両に近い形状を持つ軽装甲と呼ばれる車輌もあるにはある。
だが、こちらの場合は機関銃はともかく機関砲を搭載する事が出来るかどうか。
何にしても改造は必要不可欠である。
使ってみなければ分からないが、上手くいくかどうかは疑問が残る。
騙し騙し使うにしても、やはり物足りなさは残る。
「新しく作るしかないかもな」
とどのつまり結論はそうなってしまう。
それなりの火力と装甲を持っていて、それほど手間のかからない装甲車両。
現時点ではそれは無いから、新たに用意するしかない。
「でも、どんなものを作るんだ?」
必要なのは分かっても、具体案が無ければ意味がない。
この問いかけへの答えが求められる。
そして、それはその場ですぐに提示された。
「こういうのでどうだろう?」
示されたのは、実際に他国の軍で配備された装甲車両であった。
車体の小さな戦闘車両というのは存在する。
大きさとしては小型自動車程度であろうか。
それらがこの会議にて提示されていった。
「多分、これくらいで充分だと思う」
パソコン画面に示されたそれに全員が目を向ける。
それらを見ていた者達も、どういう物なのかを見て納得してく。
それでも疑問はやはり上がってくる。
はたして役に立つのか分からないからだ。
「これで大丈夫なのか?」
「分からない。
実際に使ってみないとね」
提案した者も、これで絶対に大丈夫などとは思ってない。
どうしても問題は発生するだろうとは思っている。
世の中に絶対などというのは、まず存在しないからだ。
何かしらの短所は常に存在する。
「けど、うちで求めてる用途にはこれが一番近いと思う」
それが小型の戦闘車両を推す理由だった。
「車体が小さいから戦闘力はそれほど大きくは無い。
けど、天使相手なら充分だ。
これでも機関砲は搭載出来るからね。
それに、装甲もあるから攻撃にもある程度耐えられる。
あと、見過ごせないのが小さくて軽い事だ」
一応装甲車両なので、8トンくらいの重量はある。
だが、それでも戦闘車両としては軽い方であった。
「これなら、輸送機で運ぶ事も問題は無い」
言われて誰もが意義を理解していく。
今回行われた兵衛府における戦闘。
その応援のための輸送がかなり大変であったのが思い出された。
特に空輸では極端に思い車輌を運ぶ事が出来なかった。
機関銃を搭載する改造自動車がせいぜいである。
火力がどうしても足りなくなってしまう。
だが、提示された小型の戦闘車両であるならば、空輸も比較的容易だ。
緊急時の輸送においても、比較的楽に進める事が出来る。
これは大きな利点になりえた。
「もちろん、火力も装甲も戦車なんかに比べたら低い。
装甲車両として見ても、それほど強くはないだろう。
けど、モンスターや天使を相手にするなら充分だ」
軍事用として考えるならば、非力とすら言える存在である。
国家同士の戦争を考えるならば、これでは用途が限られる事になるだろう。
だが、トンネルを抜けた異世界では話が別だ。
国家が抱えるような軍隊が相手ではない。
数は多いが、それらよりは非力なモンスターや天使が相手である。
20ミリ程度の機関砲が使えるならさして問題ではない。
「戦力としては、これで充分だろう」
安易な考えは決してしてはならない。
敵を無闇に過小評価するのも危険である。
だが、これまでの交戦記録から察する敵戦力からすれば、求められる戦力はこの程度で充分と言える。
今後、敵がより強力になる可能性もある。
しかし、それを踏まえて考えても、求められる戦力は極端に大きくなる事は無い。
「だから、これくらいの車輌で良いと思う」
提案者はそう言って持論の展開を締め括った。
聞いてた者達は、それを踏まえて表示されてる他国の既存車輌の情報を眺めていく。
「けど、本当にそう上手くいくか?」
「見落としてるものもあるんじゃないのか?」
出てくる当然の疑問。
それらをもとに、話は更に進む。
提示された話を足蹴にするためではない。
出て来る疑問や問題をどうやって解消したら良いのかを考える為に。
批判ではない議論の姿がそこにあった。
自然と会議は熱を持って進行していく。
後日、この時の話し合いをもとに、企業部隊用の軽戦闘車両が開発される事になる。




