60話 今後の展望について、企業における苦悩
実際、これから先の予定はかなり忙しいものになっていく。
タクヤ達よりもはるかな上位の所では、そういった今後についての策定が進んでいる。
そこではやらねばならぬ事の余りの多さに誰もが頭を抱えていた。
損害からの復旧もそうだが、それを支える体制作りもかなりの労力が必要だからだ。
「どうすんだこれ……」
企画・計画を立てる部署ではそんなうめきが上がっていく。
「兵衛府の再建は分かるけど」
「その為の資材が足りないし」
「中間大陸を開拓するにしてもなあ」
「その為の資材を新地道から持ってくるんだろ?」
「それを使って中間大陸を開発して、それを兵衛府に持っていって」
「駄目だ、どうしたって時間がかかりすぎる」
どれほど考えても、要求をかなえるのに時間がかかるという結論しか出てこなかった。
計算式のように、数字を入れ替えるだけでどうにかなるようなものではない。
現実はそんなわけにはいかない。
イコールの左右を入れ替えればどうにかなる、という事はない。
流れは一方向で、経緯と結論を入れ替える事は出来ない。
無いものを用いる事は出来ない。
今有る分以上に何かを使う事は出来ない。
金銭の額面を水増しする事は出来るかもしれない。
だが、使える資源の量が増えるわけではないのだ。
金銭も資源も労力も時間も全てが限られている。
できる事と言えば、それらを上手くやりくりする事だけである。
「とにかく資源が足りない。
採掘をどうにかしないと」
「でも、採掘する設備を作るためにも工場を」
「いや、燃料がないとどうにもならんぞ。
そっちの採掘はどうなってる?」
「動力源は原子力発電だから。
けど、発電所そのものが足りないな」
「追加の建造もあるが、それでもまだ足りないぞ」
「需要が大きすぎる。
今の手持ちじゃどうにもならん」
「それに、開拓しようにも人手が無い」
「まだ人口は増加中だけど、それでも人が足りないからな」
「工場の無人化は進んでるけど、まだ人がいないとどうしようもない所も多いし」
「それ以前の問題だ。
無人工場を造るための機器を作る工場だってまだ足りない」
集めた情報を分析して分かるのは、そういった事ばかりである。
とにかくありとあらゆる者が足りなかった。
欠乏してるというわけではない。
何も手に入らないという事は無く、採掘した資源も生産される製品も増大している。
それらを全て用いても、必要な需要を満たす事が出来ないだけだ。
全ての生産を軍需に振り分けてもまだ足りないのが現状である。
そして、全てを軍需に用いるなんて事が出来るわけもない。
まず必要なのは人が生きていくために必要になる物である。
生活を支える様々な物品があって始めて、戦闘に用いる物が作れるのだ。
でなければ、多くの人々が困窮にあえぐ事になる。
そうなったら戦闘どころではない。
「とにかく、まずは採掘からだ。
資源が無い事には始まらない」
「でも、生産の方はどうする。
そちらを優先して作っていくのか?」
「そうするしかないだろうな。
採掘に必要な物を優先して作って、資源を確保する。
生産量の増大をはかるにはそうするしかない」
「けど、人はどうする。
人数を増やすのは無理だぞ」
「それは……」
それは工場で作るわけにはいかない。
資源や物品と違い、こればかりはどうしようもないものがあった。
「……全国の夫婦に頑張ってもらうしかないな。
それと、若い連中には早く結婚してもらわないと」
もちろん冗談である。
だが、それが冗談にならない程に、この場に居る者達にとっては切実な事でもある。
「いっそ、そういう広告でもうつか?」
「どこに?」
「本国に」
新地道に比べれば出生率などがさほど高くもない日本本国。
そちらにもう少し頑張ってもらえるよう、なんらかの手を打とうという事である。
「いや、さすがにねえ」
「それはなあ」
無理は分かっている。
しかし、冗談から出てきた事を、彼等は割と本気で考えはじめていく。
そうなってる時点で、かなり煮詰まってると言えた。




