58話 親子の語らい 2
「楽で助かるな」
最前線に作られた休憩所。
そこで再び顔を合わせたタクヤとヒロキは、安穏とした現状を喜んでいた。
「あんなきっつい仕事の後だし、少しは楽が出来ないと」
「おう、言うようになったな」
「まあね」
タクヤの言葉にヒロキは面白そうな顔になる。
生意気な口をきくようになったとも、それだけ成長したとも感じていた。
「仕事の方は上手くやってるようだな」
「それはどうかな。
なんとかやってるけど」
「まあ、問題が起こってなけりゃいいさ。
とりあえずはな」
「そんなもんかな」
「そんなもんだ。
そうしてるうちに、仕事を覚えていくもんだ」
ささやかな実体験をもとにヒロキはそう言っていく。
「まあ、研修とかは受けておいた方がいいだろうが」
「それはやってるけど」
その言葉を、家を出る前に何度も聞いたなと思い出す。
確かにその通りで、研修を受けてて良かったという事は多い。
父の時代のように、それで給料が劇的に上がるというような事は無いが。
それでも必要な技術を身につける機会にはなる。
それが危険な業務をこなすにあたって必要になる事もあった。
また、かなり若くして少数ながらも人を率いる立場にもなった。
責任も大きいが給料も上がった。
「でも、割に合うほどいい目は見てないような」
「ま、そんなもんだ、会社ってのはな」
訳知り顔でのたまう父に、そんなもんかと息子は訝しんだ。
「それよりもだ。
たまには家に帰ってこい。
母さんも心配してるぞ」
「いや、こっちも忙しくて」
言われてタクヤは言い訳をする。
「戻る理由も特に無かったし」
「理由が無くても顔くらい見せろ」
「無茶言わないでくれ」
実際、そんな余裕は無かった。
仕事が連なっており、休みをとる余裕も無かった。
有給休暇も有って無きが如し。
休日こそあったものの、出勤日は毎日残業であった。
ただ、いわゆるブラック企業のように残業代が出なかったり、無茶な勤務時間を強いられる事は無かった。
二時間三時間というのは当たり前だったが、その分は給料に上乗せになったので懐具合は悪くはない。
また、この勤務時間も査定で評価され、報償になって返ってきた。
休日もまともに存在していたし、それでも休日出勤になれば振り替えの休みも与えられた。
また、当然のことながら休日出勤しても給料はその分増える(代休を取ればそれと差し引きになるが)。
働けば働いた分だけ結果は出てきたので、さして不満は無い。
もっとも、家族はそうでは無いようだったが。
「忙しいのは分かるがな」
父はそう言って苦笑する。
同じ仕事をしてるので、どれだけ大変かは分かってるのだろう。
「でも、母さんがなあ……」
時折ため息を吐く女房の姿を思い出すと、家を出たきりの息子に言いたい事も出てくるのだろう。
「まあ、元気でやってるから」
「だったら電話の一つくらいかけてやれ。
それくらい出来るだろ。
メールでもいいんだし」
「それはそれで面倒なんだよ」
「まったく、お前は……」
そう言いながら苦笑するヒロキ。
「分からんでもないが、少しは元気な所を見せてやれ。
あれもそれなりに心配はしてたから」
「そうなの?」
「ああ。
何せ遅くなって生まれたからな。
そりゃあ色々気にかけるってもんだ」
結婚が早い異世界の常識に照らし合わせれば、父と母の結婚は大分遅れた方である。
その分子供の誕生も遅くなった。
だからこそ、余計にあれこれと気を揉む事も多くなる。
「母さんも仕事をしてたからその大変さは分かってるけど。
でもな、それでも心配なものはあるんだ」
「だったらもう一人くらい弟か妹を作ってやったら?」
ささやかな反撃をタクヤは試みる。
「俺に気を向ける暇も無くなるだろうから」
「バカ言うな」
さすがに年齢的に無理がある。
それに、これから定年退職となる身では養育費の捻出も難しい。
「出来るならとっくにやってる」
父はそう言って反論をした。
そんな父に息子の方は頭を抱えたくなった。
「……出来たらやるんだ」
父が本気なのは、生まれた時から息子をやってるタクヤには嫌と言う程理解出来た。
諸条件が満たされていたなら、躊躇うことなく実行しただろうと。




