56話 開拓に向けて 3
「もちろん、懸念されるこうした事態はなるべく避けたいと考えてます」
他の企業が心配する供給の減少について、発言者は否定する。
「現在の取引を出来るだけ保ち、悪い影響が出ないよう努力します」
「なら、いいのだが」
「しかし、それでも大陸開発が優先なのでしょう?」
「だとしたら、やはりそちらを優先して、我々への販売などが後回しになる事も……」
「ある、と言えるでしょう。
残念ながら、我が社も進めねばならない案件がありますので」
発言者はそこを否定はしなかった。
努力はするにしても、他に全く影響が出ないというわけではないと。
その事に他の者達は不安を懐く。
中には、これは商売を手広く拡げる機会だと考える剛の者もいたが。
一井物産が一時的にでも手を引くならば、その瞬間に隙間が生まれる。
その隙間を埋めるよう立ち回れば、商機を拡げる事が出来る。
その隙を狙う者達も当然ながらいた。
そういう者達にとってみれば、一井物産の行動は自分達が手を拡げる機会にも思えた。
だが、一井物産もそれは織り込み済みである。
「ですが、その分大陸の開発を進め、資源・生産体制を更に確立させていくつもりです。
そうなれば、一時的に供給が追いつかなくなる分野も、いずれは回復する事になるでしょう。
皆さんにはその間を耐えていただく事になるかと」
そうなったら巻き返しをはかるつもりでいる。
取られた隙間を取り戻すために。
一時的に優位性を失う事になっても、巻き返しを図る事は出来ると考えての事であった。
その間、他の業者が多少は優位性をもったとしても、その市場を取り返せると。
「ですので、極端な不足状態が続く事はないかと。
むしろ、開発が進むにつれ、流通させる事が出来る量は増える事になります。
その時には、今まで以上に安価で大量の製品を提供出来るでしょう」
大量供給による値下げを敢行する。
そうなれば、例え他の業者に市場をとられたとしても、取り返す事は出来る。
一井物産はそう読んでいた。
「その際には、多くの方々と今まで以上の取引が出来ると思います」
隙間を狙った者達がどれだけいても、それ以上に取引先を確保出来る。
その自信が一井物産にはあった。
実際、それを聞いて一井物産との取引を考える企業もいた。
先々を考えれば、安価に大量供給出来る一井物産と手を組んだ方が有利になる。
一時的に他の企業に足りない分の補填を頼むにしてもだ。
それだけの生産体制を一井物産が確立出来たのならば。
ならば出来るだけ早く取引を持ちかけようと考えるくらいには、この場にいる者達は商売人であった。
はっきりとした形になってから取引をもちかけても足下をみられる。
それよりも、計画段階とはいえそのうちに取引をもちかけていたほうが良い。
もちろん、計画が潰える可能性だってある。
だが、それでも先んじて取引をもちかけておけば、少なくとも手を打っておけば、後になって慌てずに済む。
そう考える多くの者達は、この会議が終わったらすぐに一井物産の代表者に話しかけようと考えていた。
それどころか、一井物産の大陸開発に携われないかと考える者達もいた。
出来上がるのを待つだけではなく、最初の段階で一緒に大陸に乗り出せないかと。
一井物産が主導で、つまりは独占的に行うと言ってるので、その可能性は低い。
それでも何かしら絡む事が出来ないかと、誰もがこの大きな商機に乗り込もうとしていた。
「何はともあれ、中間大陸の開発において、一井物産は全力を投入します。
他の皆様にも支援を仰ぐ事もあると思いますので、その時にはどうかよろしくお願いいたします。
また、今後も変わらぬ取引をお願いします」
そう言って一井物産の代表は、発言を切り上げた。




