54話 開拓に向けて
兵衛府方面の復旧、ならびに増強。
これらが必要不可欠というのは論を待たない。
最前線の基地が兵衛府であり、その先に敵がいるのだから、ここを強化しない事にはどうにもならない。
ただ、単純に兵衛府の設備だけを強化しても意味がない。
必要なのはそこを指させる後方である。
生産設備などは最前線ではなく、その後ろにあるのが望ましい。
攻撃にさらされる所で生産活動を行うのが困難なのは明白だからだ。
もちろん、現地である程度の生産や調達が出来るなら、それはそれで良い事ではある。
しかし、今回の出来事でそれだけでは足りないのも明らかになった。
「なので、途中にある大陸の開発を進めていきたい」
新地道自治体と代表企業の会合の席で、解決策ともなる案が出されていく。
「いまだ開発が進まないこの大陸ですが、調査では様々な資源が確認されている。
ここを開発する事で、採掘から生産を賄う生産拠点を作るべきかと」
「それは……」
「確かにそうだろうが……」
意見の妥当性を認める声が上がっていく。
しかし、それに伴う問題も理解してるので歯切れは悪い。
「ご意見ごもっともですが、それにかかる費用や時間は膨大なものになります。
資源が確認された場所まで道を切り開くだけでも大変な労力です。
施設を作るとなればなおさら。
それでも大陸開拓を?」
「それに、この大陸の開拓は開発だってまだ途中だ。
それを推し進めるだけでも充分なのでは?」
この大陸とは、日本に繋がるトンネルのある大陸の事である。
別世界であるこの星における、日本の中心地と言ってよい。
その大陸もまだ完全に開発が終わってるわけではない。
実際、開発予定となってる計画は目白押しだ。
それらを押しのけてでも別大陸の開発を進める必要があるのかどうか。
誰もがそんな疑問を抱いた。
「ごもっともなご意見です。
ですが、それでも敢えて別大陸の開発を進めるべきだと考えます」
「それは、なぜ?」
「兵衛府への輸送を考えた場合です。
この大陸から兵衛府まで輸送をしようとしたら、時間がかかりすぎます」
その言葉は誰も否定出来なかった。
お互いの距離が短ければ、輸送にかける時間も短くなる。
だが、中心となる大陸と兵衛府とでは距離があまりにも離れ過ぎている。
緊急で物資が必要になったとしても、即座に輸送する事が出来ない。
もちろん、別大陸と兵衛府のある大陸もそれなりの距離は開いている。
だが、中心となってる大陸よりは近い。
輸送を考えれば、両者の間にある大陸から輸送が出来た方が便利ではある。
「ですでの、中間にある大陸の開発を進め、兵衛府の支えとするべきかと考えます」
「なるほど」
兵衛府の支援というなら理にかなった考えではある。
それに、どのみち中間にある大陸もいずれは開発せねばならなくなる。
その足がかりを今のうちに作るというのも悪い事ではない。
だからといって、簡単に認められるわけではない。
「だが、それだけの予算があるかどうか」
「施設だってすぐに作れるわけではないぞ」
「建設の為に資源をまわす事になる」
「その分、この大陸の開発が遅れる」
中間大陸を開発する事で、他に負担がかかることになる。
それらがどうしても問題になってしまう。
だが、発言をしてる者は慌てない。
「ご安心を。
この大陸の開発は、我々が行います」
それを聞いた他の者達は驚いた。
一部、それを知っていた者達を除き。
「中間にある大陸の開発は、我々一井物産が受け持ちます。
他への支障はそれほど大きくありません」
その言葉に言わせた者達の大半は、戸惑った表情を浮かべるしかなかった。




