52話 攻防の転換 7
「しかし、それも難しいでしょうな」
とりあえず敵を撃退は出来ても、その先が続かない。
司令部でもその事はしっかり理解していた。
「壊滅した部隊の数が多すぎます。
敵を押し返す事は出来ても、敵地にまで突入するのは難しいですね」
「そうれもそうだろうな」
全体を統括する司令もそれは理解していた。
今回の戦闘における損害はかなりのものになっていた。
防衛にあたるために兵員を根こそぎ動員する始末である。
おかげで、予備の兵力というものがない。
敵を前線まで押し返したとしても、そこから先に進む事は極めて困難だった。
もし可能ならば、敵地に向かって進軍し、残ってる敵の施設や設備を破壊したい。
しかし、それをやるだけの人数を集める事が難しい。
現在、企業の戦闘部隊すら動員して事にあたってるのがそのあらわれだ。
新地道における自衛隊や現地戦闘部隊だけではどうにもならなかった。
最前線部隊が壊滅したるのが痛い。
そこで失われた命は、そのまま展開出来る兵力の大幅な減少に繋がっていた。
失われたのは兵員だけではない。
押し寄せる敵を撃退するために、多くの物資が消費された。
銃弾に砲弾、燃料などなど。
機械の整備のために様々な部品も消耗した。
また、設置してあった無人機銃座などの設備も壊滅している。
これらの復帰には多大な時間と予算と物資が必要になるだろう。
現段階における新地道の財力では再建は難しい。
手つかずのままにしておくわけにはいかないが、元の状態に戻すには何年かかかるかもしれなかった。
こんな状態で、敵地に突っ込む事など出来るわけもない。
進撃するには移動をせねばならず、移動をするには燃料が必要になる。
歩いていくならともかく、敵地まで向かうとなると車輌が最低でも必要になる。
また、敵地に向かったとして、効果的な攻撃を行うには相当な火力が必要となる。
敵の生産設備を破壊する必要があるのだから、爆薬などは当然必要だ。
兵士が持つ歩兵用の銃器程度では、巨大な生産設備を破壊する事は出来ない。
最低でも、戦闘用の装甲車両の火力くらいは求められる。
それを展開するだけの余力が兵衛府には不足していた。
それに、兵員の疲労の問題もある。
どの部隊の者達も、休む事なく戦闘を続けている。
増員の者達も長距離の移動によって多少は疲労をおぼえている。
そんな者達を更に酷使して敵地にまで突入させるわけにはいかない。
特に最前線部隊の者達は、まとまった休息を与えねば使いものにならなくなる。
それでも無理をして敵地に出向いて攻撃を加えるべきかもしれない。
敵の設備を破壊出来れば、更に大きな猶予を得る事が出来る。
だが、無い袖が振れないように、それに割けるだけの兵力がない。
これ以上の無理はさすがに不可能である。
今は見えてきた戦闘の終わりを迎える事だけを考えるしかなかった。
先の事はあえて考えない事にして。




