50話 攻防の転換 5
105ミリ戦車砲は、やや旧式で威力も新型に比べれば劣る。
だが、それはあくまで戦車同士の戦闘においてである。
最新型の戦車にはたしかに効果は薄いだろう。
しかし、それ以外の地上車輌相手ならばまず間違いなく撃破するだけの威力がある。
それらが戦闘車両よりも脆弱な天使の群れに放たれたのだ。
ただで済む訳がない。
戦車砲弾を撃ち込まれた天使の群は、文字通りに木っ端微塵に吹き飛んでいく。
それも一体だけではない。
撃ち放たれた砲弾が通った線上にいる全てを巻き込んでだ。
また、飛んでいく砲弾が周囲にもたらす威力もバカに出来ない。
発生する衝撃波は大きく、脆弱なものならそれだけで吹き飛ばす。
天使達もそれに巻き込まれてそれなりの影響を受けていく。
砲弾の近くをかすめたものは吹き飛び、そこまで近くにいなくても体勢を崩していく。
それが連なって移動してる金属の群を揺るがしていく。
そこかしこで衝突が起こり、それが後続の進撃を阻んでいく。
進撃は渋滞を起こし、後続の方で動きを止める所も出てくる。
そうなった金属の敵に目がけて、戦車隊は更に砲撃を続けていった。
それからしばし、砲撃の轟音が鳴り響く。
走りながらも射撃を繰り返す戦車隊によって、敵の大半が瓦解していく。
何せ一発撃てば2000メートルから3000メートル先の天使まで巻き込んで撃破するのだ。
それも、途中に居る数多くの天使を巻き込んで。
戦車隊の進む先は瓦礫の山が気づき上げられる事になる。
それらを、戦車は車体の全部につけたブルドーザーのような器具で押しのけていく。
出来上がった瓦礫の山をそうやってかきわけながら、戦車は道を切り開いていった。
「凄えな、戦車は」
戦車の通った後ろを進むヒロキ達は、圧倒的な破壊力を見せつける戦車に驚嘆する。
その活躍は、これまでの人生で何度か見たが、あらためてその威力を見せつけられる事になった。
「ドラゴンを一発で仕留めるだけはあるな……」
基本的にモンスターを相手に戦うのがほとんどであった。
その場合、だいたい一撃で仕留めている。
105ミリよりはるかに小さい20ミリの機関砲で倒せるのだから当然だろう。
だが、20ミリ機関砲や個人携帯が可能なロケット砲では一撃で倒すというのは難しい。
致命傷を与える事は出来るが、そう簡単には倒れてくれない。
それを本当に一発で倒すのだ。
やはり威力の桁が違う。
それを今、相手を変えて戦車は見せてくれている。
一発撃つ度に、連なる敵を吹き飛ばしながら。
「あれがいっぱいあれば、戦闘も楽になるんだがなあ……」
自分達が用いるバギーや四輪駆動車とは比較にならない火力を見てると、ついついそう思ってしまう。
もっと数多く配備されてれば、自分達の作業もだいぶ楽になるのにと。
(無い物ねだりなんだろうけど)
そう思いながら、自分のバギーに搭載されてる機関銃を使っていく。
戦車が粗方片付けてくれてるとはいえ、敵が完全に消滅したわけではない。
生き残った敵は、そこかしこに点在し、瓦礫となった仲間を飛び越えて接近してくる。
それらに狙いを定めて機関銃の引き金を引いていく。
7ミリ弾頭の機関銃弾は、狙い通りに金属の体を撃ち抜き、新たな瓦礫に変えていった。




