45話 留まって戦ってる理由と、それを支える心理的な理由
「今日も天使の皆さんは、仲良く列を作ってるねえ」
「困ったもんだな、本当に」
姿形からそうとらえてるだけであるが、それで定着してる呼び名は、色々な事を考えさせる。
「神様は何を考えてるんだか」
「俺達人類の抹殺じゃないの?」
「なんにしても、人間の味方じゃないわな」
呆れるような嘆くような声が出る。
「あいつら、人間じゃなくて神様の言う事を聞いてるだけなんだから。
俺達の声なんて見向きもしないだろうよ」
そう言って引き金を引く。
天使が一機撃墜された。
続けてもう一機、更にもう一機。
20発入りの弾倉が空になるまでそれを繰り替えす。
弾丸が無くなれば新たな弾倉を装填し、再び撃っていく。
だいたい、数発撃ち込めば倒れるのが天使である。
弾倉一つで4~6体倒すのがせいぜいだ。
その場に置いてある弾倉が次々に消費されていく。
それでも敵は全然減ってくれなかった。
空になった弾倉は回収されて後方にまわされていく。
そこで弾丸装填具を使って新たに弾丸が入れられていく。
一発一発入れていくよりは早いのだが、それでも消費速度には追いつかない。
手の空いてる者達が総出で取りかかってるが、それでも装填しなおされた弾倉を用意するのは遅れがちである。
機関銃の弾帯も同様で、再装填に時間がかかっている。
それでも用意しておかなければ戦闘を続ける事が出来ない。
前線の者達も大変だが、それを指させる後衛も手が抜けない。
出来上がったものを前線にもっていく。
そして、戻ってきた弾倉に新たに弾丸をこめなおしていく。
いつ終わるともなく作業は続いていった。
「予備の砲弾だ」
迫撃砲が展開している陣地に追加が届く。
それらが、配置された迫撃砲に届けられていく。
迫る敵に対して、迫撃砲は休み無く砲撃を加えている。
しかし、効果があるとは言い難い。
確かに敵は蹴散らしてるのだが、やはり数が多い。
それに、着弾地点の周辺に爆風と破片をまき散らすのだが、浮かんでる敵には効果が薄くなる。
といっても、地上数センチから数十センチ程度なので、設置してるのと大した差はない。
だが、まがりなりにも金属の体なだけに、爆風も金属片も効果が薄くなる。
人体に比べれば硬い相手だけに、迫撃砲の威力ではこころもとない。
長距離砲の榴弾ならば数百メートルの範囲で周囲を巻き込むが、それも今は使えるものが少ない。
砲撃は迫撃砲に頼らなければならなかった。
その迫撃砲も砲弾がなければどうにもならない。
「あと、どれくらい残ってる?」
「まだ大丈夫だと思うけど、この調子だとな」
「そうか」
予備を持ってきた者の返事に、迫撃砲の担当をしてる者がため息を吐く。
まだ砲撃は続けられるが、それも長いことではない。
分かっていたが、そう示されると辛い。
弾がなくればそれも仕方ないのだが、出来ればもう少し敵を蹴散らしておきたかった。
「あの機械共……」
双眼鏡で敵の姿を見つめながら憤るような吐き出す。
着弾によって幾らかは倒しているが、それ以上に生き残ってる敵の姿に歯ぎしりをしてしまう。
それでも砲撃を止めるわけにはいかない。
これも敵の数を確実に減らしているのだから。
それが尽きたらどうなるか……考えたくもなかった。
ただ、その時がくるまでは撃ち続けるしかない。
敵を少しでも減らすために。
タクヤ達が周辺から集めてきた物資のおかげで多少は戦闘を継続出来る。
しかし、それがいつまでも続くわけもない。
敵を撃退し、輸送路を復活させなければ意味が無い。
だが、それをやるだけの余裕は無い。
とにかく今は、押し寄せる敵が通り過ぎていくのを待つしかなかった。
ただ、取り残された者達の不安はそこではない。
兵衛府が生き残れるかどうか。
それが最大の懸念であった。
自分達の今後にも関わってくる。
兵衛府が潰れたら全てが終わる。
前線部隊もそれにあわせて潰える。
なので、どうあっても兵衛府には生き残ってもらわねばならなかった。
でなければ前線で敵に少しでも損害を与えてる意味がなくなる。
ここでの戦闘は、兵衛府に向かう敵の漸減である。
直接兵衛府にかかる脅威を減らすためである。
それもこれも、兵衛府が残り、敵が消え去り、増援がやってくる事を期待してのものだ。
兵衛府が陥落しては意味が無い。
あと数時間で敵の後続も途切れる。
いや、数時間というほど長くもない。
それまでどうにかして堪えるにも、全ては兵衛府存続のためだった。
それが出来ないとなれば、今やってる事の全てが無駄になってしまう。
もしそうなれば、兵衛府存続、ひいては自分達への増援・救助という期待も潰えていく。
弾薬・砲弾が底をつくよりも、それは恐ろしい事であった。
それはここにいる者達ではどうしようもない、兵衛府にいる者達に託さねばならない。
その事もまた不安をあおっていた。
自分達ではどうにもならない事で、自分達の運命が決まってしまう。
他人に、他の誰かに命運を握られてるのは気分のよいものではない。
だが、今は兵衛府に残ってる者達に全てを任せるしかない。
(がんばってくれよ)
それが前線に残った生き残り達の願いだった。
とりあえずここまで。
続きは未定。




