39話 襲来 16
「それが一番安全でしょうね」
話しを聞いた山城が考えを口にする。
「それまでもてば良いですけど」
「まず無理でしょうね」
タクヤは即座に否定する。
「今の弾薬や燃料の減り具合からすると、かなり難しいかと。
敵の最後尾が来る前に、俺達が干上がります」
「それじゃあ……」
「そうなる前にここから出ていく事になるでしょうね」
「そうなりますか」
ため息が漏れる。
「だとして、どうやって行くかですね。
何か、方法でも?」
「強行突破になりますね。
敵の中を突っ切っていく事に」
「それしかないと」
「俺の頭で考えられるのはこれだけです」
「じゃあ、これ以上考えても無駄でしょう。
他の人に何か良い考えがあるわけでもないでしょうし」
山城はタクヤの考えを尊重した。
その能力も含めて。
他に何か良い手段があるわけではないと。
「じゃあ、これをやるのに何が必要なのか考えましょうか」
「そうですね。
でも、さすがにすぐに思いつくわけじゃないんで」
「そこは他のみんなも含めて考えましょう。
幸い、暇な人はいますから」
そう言って肩をすくめる。
「指揮官のほとんどがやることがなくてね。
まあ、生え抜きの皆さんがいるからなんですが」
「でも、何かありますか、良い手段が。
申し訳ないけど、皆さんにそこまで期待できませんよ」
「まあ、期待されない方がこちらも助かります」
山城、自分を含めた指揮官や幹部の能力を何一つかばいはしなかった。
「でも、頭でっかちでも一応は色々勉強してきたので。
その分はがんばらないと」
「じゃあ、お願いします」
そう言ってタクヤは退いた。
別に我を通す必要はない。
やると言うのだからやらせようと思った。
何が出てくるかは分からないが、やる気を削ぐような事をしたくはなかった。
駄目なら駄目で、出て来たものを否定すればよい。
だが、何も出て来ない今の段階であれこれ言うほど野暮にはなれなかった。
「どうでした?」
森山の問いかけに、
「まあまあじゃない」
と応えた。
「それより、戦闘の方は?」
「問題ありません。
まだどうにかなってます」
指揮を執る必要があるかと思ったが、そうでもないようだった。
「みんな、優秀で助かる」
「結構おっかなびっくりではありますけどね。
新人も多いし」
「それにしてはがんばってるよ」
素直に喜びたいところだった。
思った以上に頑張ってくれてる事に。
「まあ、とりあえずもう暫く頑張ってもらわないと」
「でも、どれだけ頑張ればいいんですかね。
弾丸もどんどん無くなってきてますし」
「それについて話合ってきた」
ある程度かいつまんで山城と語った事を伝えていく。
「なるほど」
聞き終えて森山は頷いた。
「上手いこと考えてくれればいいですけど」
「あまり期待はしないでおこう」
タクヤとしては苦笑するしかない。
「真面目にがんばってくれるかもしれないが、馬鹿な事を言い出すかもしれないし」
「何とも言えないところですね」
山城ががんばってる事は、そして無駄に張り合ったり権威を振りかざしたりしないのは良い。
だが、他が全てそうだとは言えない。
タクヤの考えにあれこれ文句や言いがかりをつけてくる可能性もある。
むしろ、その可能性の方が高い。
「連中、無駄なプライドがあるからなあ」
「いや、プライドなんて上等なもんじゃないでしょ。
意地を張ってるだけで」
「虚栄心って奴だな」
エリートというか幹部などに見られる傾向だった。
自分が主導権を握ろうとする。
その為にやるべき事や進言などを無視するという。
上司としては最低最悪の類である。
そして、もっともよく見られる傾向でもある。
あくまでタクヤや森山の見てきた範囲での事だが、そういった連中の方が印象が強い。
これらの馬鹿のおかげで面倒が増えたことがこれまで何度もあった。
それを思い出してはらわたが煮えくりかえる。
「あの人はそういうのが少ないように見えるけど」
「あくまであの山城とかいう兄ちゃんだけは……ですけどね」
他の連中が似たようなものだと、これからが面倒になる。
「こっちの言い分を聞かない可能性が高いよなあ」
山城が議題に出しても頭ごなしに否定する可能性があった。
「こっちでも考えておくか」
「その方が無難でしょうね」
山城が他の連中に話しをもっていくというのは良い。
それはそれで任せようと思う。
だが、今一つ信頼が出来ないので、タクヤはタクヤで考えをまとめようと思った。
それからタクヤはこの場にいる部隊の者達に、残りの物資量や動ける人間の事などを聞いていく。
更に、これからの行動についても語っていく。
いつまでもここにいられない事。
適度な所で飛び出して他の所に向かう事。
物資をその途中で回収せねばならぬ事。
物資が確実にあるかどうかは分からない事。
何より、敵の中を突破せねばならぬ事。
他に上手いやり方を思いつくわけでもなく、これ以外に何も考えが浮かばない事。
「そういうわけだから、覚悟はしておいてくれ」
そう締め括って通信を切った。
それを聞いた者達は、「しょうがない」「やるしかねえよなあ」と頷いていった。
不平や不満はあるが、それをタクヤにぶつけるような馬鹿はいない。
言ってもしょうがない、そもそも言うべき相手が違うのは分かってる。
置かれた状況を考えれば、そうするしかないのは分かっている。
それらを作ったのは敵であり、文句を叩きつけるなら今も押し寄せてるそいつらにやるしかない。
それを他の誰かに八つ当たりするほどの馬鹿はいなかった。
そんな事をすれば、やった相手に殺される。
全員が銃を持ってるのだ、そういう事件は幾らでも起こってる。
なので、迂闊な事を言わないのは生き残る為に誰もが心得てる。
そういった者だけが生き残ってるので、馬鹿はここにはいない。
それよりも、どうやって敵を突破するのかを考えねばならない。
生き残るために必要なのは、そちらの方である。
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