38話 襲来 15
与えられてる情報から、敵の分布がおおよそ把握出来た。
現時点の状況というわけではないが、ある程度の流れや勢いは分かる。
それらによれば、戦線に広く分布した敵があちこちで突破を果たしているのが分かる。
そうやって各地で孤立した部隊が発生している。
だが、それがタクヤ達にとって有利な点を発生させもしていた。
「敵が薄くなってる」
それでも数が多いのだが、戦線に押し寄せていた時よりは薄く展開している。
当然ながら火力や(部隊としての)耐久力も低下している。
上手くいけば、そこを突破していけるかもしれなかった。
ただ、後方に撤退するにしても、既に敵が突破してるのでその中をかいくぐっていかねばならない。
手間も面倒も大きい事に変わりはない。
「それでも、多少は勝ち目がある」
全滅はしないだろうという程度ではある。
ここにいる者達のなかで、無事に兵衛府までたどり着けるのは数人程度かもしれない、というくらいだ。
だが、壊滅は避ける事が出来る。
それは、押し寄せる敵に踏みつぶされrうよりは幾らかマシなものではあった。
「上手くこれを突破して、出来れば味方とも合流していければ」
そんな夢みたいな事も考える。
前線に取り残された者達と合流し、それらと協力出来れば火力の確保も出来る。
今の状況がどんなものなのかにもよるが、それらを救助出来ればタクヤ達への助けになるかもしれない。
また、放棄された物資の回収が出来れば、多少は補給や補充も出来る可能性がある。
「まあ、さすがにそれは難しいだろうけど」
敵の中を突破し、味方の陣地に駆け込まねばならないのだ。
そう簡単にいくわけがない。
だが、そういった事も一応考えておく。
やれるかどうかはともかく、選択肢はある程度揃えておかねばならない。
「一番いいのは、このまま後方に出て味方の所に逃げ込む事だけど」
成功する可能性はこれが一番高いはずではある。
だが、道路などが整備されてない場所を通っていく事になるので、遭難の危険はある。
この大陸、兵衛府とその周辺以外の開拓や開発はほとんど進んでない。
前線と通じる道路もほとんど一本だけしかない。
そんなわけで、タクヤ達がいる戦線の端の方から兵衛府に通じる道はない。
通路のようなものはあるが、それは戦線の背後を通ってるものだ。
今は敵によって覆われている。
行くとしたら、そこを突破しないといけない。
その危険を避けようと思ったら、道のない場所を進む事になる。
バイクやバギーならともかく、車輌やトラック、それに装甲車は無理かもしれない。
車輌が通れるような場所があるか分からないのだ。
木々の密集する森林や、崖や川に湖などなど。
一定以上の段差のある窪地などがあればそれだけで足止めをくう。
それでも敵がいないという利点はあるが、それも道に迷って遭難するのと危険はさして変わらない。
司令部と連絡がとれれば救援が来るかもしれないが、もし通信手段を失ったらどうにもならない。
例え救援が来るにしても、それは戦闘が終わってからになる。
そこまで通信機の電源がもつかどうか。
それ以前に食料や燃料がもつかわからなかった。
何より、敵が追ってきたらどうなるのか、という問題がある。
撤退するタクヤ達を追いかけ、立ち往生してるところで襲ってきたら。
そうなったら確実に壊滅する。
進退窮まったところで出口を塞がれたら、あとは死ぬしかない。
何がどうなってるのか分からない場所を行くのは、そういう危険があった。
どこをどう進んでも危険は避けられない。
だったらどれを選んだ方が良いのかという事になる。
押し寄せる敵をどうにか避けて、あるいは押しのけていかねばならないのは共通している。
問題はそれをどうやってやっていくかである。
「となると……」
考える事は一つ。
出来るだけ敵の勢いが無くなったところを突くしかない。
幸いにして敵の後続は大きく減退する。
ある程度凌げばその時がやってくる。
逃げ出すならその時が最善だろう。
「けどなあ……」
それまで弾薬やなどが保つかどうか問題である。
いずれは消えるにしても、それまでは押し寄せてくるのだ。
手持ちでどうにかなるとはとても思えなかった。
さりとて補給のあてはない。
輸送路は断絶し、味方との接触は不可能。
何かしらの物資を手に入れるとしたら、味方が撤退した、あるいは壊滅した場所に行くしかない。
補給所の跡地に少しは何かが残ってる可能性はあった。
なぜかは知らないが、敵はタクヤ達のような人間や車輌などは攻撃をする。
しかし、燃料や弾薬に食料などの物資は無視をする。
なぜそうするのかは分かってないが、だいたいにおいてそういった動きをする。
なので、弾薬や燃料が残ってる可能性はあった。
あくまでそうかもしれないという程度の期待しか抱けないが。
だが、もし足りなくなる弾薬や燃料を確保しようとしたら、それらを手繰っていくしかない。
逃走路も、それらを辿っていった方が、まだしも確実に思えた。
途中に敵がいるのだけが難点である。
「なので、敵が落ち着くまでこのあたりに立て籠もろうと思います」
タクヤはそう結論をして他の者達に伝えていった。
続きは明後日の12:00




