34話 襲来 11
後方の司令部においても、戦線の状況が把握されていく。
一部、突破された部分が発生してる事も当然その中に入っている。
それらへの対処のための指示を出していくが、効果は上がってない。
戦線後方に控えていた予備兵力をあて、補強がなされた部分もあるが、いかんせん数が足りない。
あるいは、敵が多すぎるというべきか。
突破してきて後方に回った敵を全て撃退する事は出来ない。
あちこちの敵を迎撃するには、味方の数が少ない。
一カ所を立て直してる間に、別の部分が二カ所三カ所と突破される。
そして、一度開いた戦線の穴に敵は殺到する。
傷口は拡大し、小さな穴は通り道になるほどにひろげられてしまう。
そうなってしまった部分を穴埋めする事など不可能だった。
突破された戦線部隊は、後方にまで敵が周り前後から攻撃されていく。
今まで正面だけを相手してれば良かったが、今は前後に兵力を割かねばならない。
その分だけ一方向への戦力は減る。
敵の攻撃にさらされた者達は、ある場所では撃破され、ある場所では後退をしていく。
予備部隊で補強が出来た部分以外では、こうして戦線が破壊されていく。
それは、かろうじて補修と補強が出来た部分をもにこんでいく。
戦闘はそれでも継続しているが、今までのようにはいかなくなっていた。
明るい兆しもある。
続けられている爆撃によって、敵の生産施設の破壊も進んでいる。
それらは今回、ろくに再建もされずにいた。
今までは施設再生のために数多くの機械が残っていたが、それすらも戦線に向かってるようだった。
もちろん、全ての機械が戦闘に参加してるわけではなく、幾らかは残って施設再建をしている。
だが、その数は少なく、破壊の速度に追いついてない。
それでも、破壊された施設はいずれは復活するだろう。
だが、この瞬間だけを見れば、破壊の速度が再建速度を上回ってる。
それは、撃破した敵の補充が追いかない事を示している。
撃破し続ければ、いずれ敵も途切れる。
実際、観測衛星や航空偵察でも、敵の後続部隊が途切れてるのが確認されている。
敵を破壊していけば、いずれは殲滅が出来る。
だとしてもだ。
戦線は既に崩壊している。
敵を撃破するよりも先に敵に殲滅される可能性がある。
その確率はかなり上がってきている。
前線の縮小による立て直しを図るが、それもどこまで出来るか分からない。
分断されて敵に囲まれた部隊も発生している。
それらを救出する事も出来ない。
このままではそういった部隊を見捨てる事にもなりかねない。
一部の部隊は、それを察知して独自に行動して本隊に合流をしていた。
独断で持ち場を離れたと言えるが、そのおかげで孤立しての全滅を免れている。
正式な通達はまだだが、司令部としてはそういった行動をとった者達の問題を不問とする事にしていた。
この状況では現地に留まる事の方が問題である。
小さく細切れにされて各個撃破されるよりは良い。
なのだが、それで危機的な状況が変わるわけでもない。
今はまだ部隊の孤立で済んでいる。
だが、戦線が突破された以上、それは部隊だけの話しではない。
このまま敵が戦線の後方にまわれば、戦線を構成してる部隊そのものが兵衛府と分断される
輸送路が分断されれば、戦線そのものが孤立する事になる。
弾薬・燃料・食料などはまだあるだろうが、それらがいずれ枯渇する事になる。
そうなれば戦闘の継続は出来ない。
それを防ごうにも、それだけの戦力がない。
現有戦力の大半は戦線に向かっている。
兵衛府防衛のための部隊は残ってるが、それらすらも動かしてしまったら、突破してきた敵を食い止める事が出来ない。
輸送路・補給路を確保するために前線部隊を動かすしかない。
そうなると、更に戦線を縮小して戦力を捻出する事になる。
一時的にでもそうして後方に回った敵を撃破し、その上で戦線の再構築……という事になる。
だが、いずれ途切れるにしても、今は数多くの敵が目の前にいる。
それらが縮小した戦線────拡大した突破口から更に数多く殺到してきたら、その撃退も困難になる。
それでも輸送路を守るためには戦線に展開してる部隊を後退させ、戦力を再配置するしかない。
一時的に戦線を縮小させてでも、輸送路を守り、後方に出て来た敵を倒すしかない。
それは司令部も分かっている。
だが、そうなると孤立した部隊を確実に置き去りにする。
孤立した部隊を救出する事など、現段階でも不可能と言って良い。
それを本格的に見捨てる事が出来るのかという事になる。
だが、救助が無理なら、ここで切り捨てないと今後に響く。
輸送路が崩壊したら、それこそ前線部隊全てが全滅してしまう。
一部(というにはかなり大きいが)を切り捨てて全体の命脈を保つか。
無理をしてでも合流を果たし、その為に損害を発生させ、前線と後方という大きな分断を発生させるか。
考えるまでもない、取り残された部隊を見捨てるしかない。
でなければより大きな失敗と敗北に進む事になる。
なのだが、この冷徹な決断を下すのは司令部としても苦しいものがあった。
そんな中で、異彩を放ってる部隊がある事に、司令部もまだ気づいてはいなかった。
取り残された部隊の中で、比較的元気に行動してる連中に。
22:00に続きを




