31話 襲来 8
「班長、これを」
「どうした?」
近くにいた班員が、タッチパネル端末をかざしてくる。
それに目を向けたタクヤは、言わんとしてる事をすぐに理解した。
「突破されたか」
戦線の一部からのメッセージが、表示された地図に重なっている。
それらは、発信者の近くで敵が阻止線に到達、これを突破してると告げている。
「ここからは……遠いか」
それだけが幸いだった。
あるいは最悪だった。
「近ければ、助けにいけたかもしれないけど……」
すぐに影響が及ばないのは良いが、手を貸す事も出来ない。
何らかの支援が出来ればいいが、離れた場所ではそれも難しい。
「まずいな」
「どうします?」
タッチパネルの液晶画面端末を持つ班員が尋ねてくる。
起こった事態にどう対処すればいいのか知りたいのだろう。
もっとも、それはタクヤも同じである。
「そうだなあ……」
現実を今は無視して思考をしていく。
何らかの対策をたてるため、頭を使っていく。
とはいえ、すぐに何かが思い浮かぶわけもない。
「とりあえず、こっち側の補強でもしておくか」
良いながら、液晶画面に表示されてる地図の、突破された付近を指す。
「こっちにこないように、攻撃を強化してくれ」
そう言いつつも、では具体的に何をすれば良いのかは分からない。
自分の持ってる手段でそれが可能かどうか、それを更に考えていく。
一応、こういう時にどうするかは考えてはいた。
とはいえ、それは自分達のいる場所が突破された場合についてである。
他の部分が突破された時の事まで考えてるわけではない。
それとて、「出来るだけ素早く逃げる」という事に尽きる。
徹底抗戦とか、体勢を立て直して、などという勇ましさなど何一つ無い。
輸送部隊の護衛がせいぜいのタクヤ達に、そんな戦闘能力は無い。
出来る事といったら、銃をぶっ放す事と、車輌を運転する事くらいだ。
それでも、出来る事をなるべく実行しようとしていく。
「迫撃砲をどんどん撃たせろ。
とにかくこっち側にくる敵を少しでも削れ」
森山を含めた周りの連中と話し合って、まずはそこから始めた。
かっぱらってきた迫撃砲から次々に砲弾が飛んでいく。
それらは、タクヤ達の前にいる敵の後方へと飛び、そこにいた敵の後続部隊を破壊していく。
すぐ目の前にいる敵を倒す事はないが、それで敵の攻勢を少しだけ途切れさせる事が出来た。
「とにかくありったけ撃て。
弾の残りなんて気にするな。
目の前の敵を消すのが先だ」
その言葉に従ったのか、迫撃砲に貼り付いてる連中は、手元にある砲弾を惜しげもなく使っていく。
おかげで、目の前にいた敵がしばらくしたら消えていった。
その隙を利用して、タクヤは何人かの班員を伝令と応援に出す。
12.7ミリ機関銃を搭載してる車輌を中心にした応援部隊だ。
念のためにロケット発射器や無反動砲なども持たせた。
これで突破されたという場所への補填をするためである。
ついでに、侵入して来た敵にあわせて迎撃態勢をとるように伝えてもいく。
言われるまでもなく行動してるだろうが、それでも念のためである。
戦線の後ろにいると、その事にも気づいてない可能性もある。
念には念を入れてである。
特に補給所の連中にはそれを徹底させるように言った。
そこが攻撃されたら、戦闘の継続が不可能になる。
何より、弾薬や燃料が爆発したらとんでもない被害になる。
なんとしてもそれだけは避けねばならなかった。
なお、車輌の機関銃が消えた穴は、かっぱらってきた12.7ミリ機関銃が代役を果たしていった。
それと同時にトラックを動かして、補給所から物資を更に運び出させていく。
突破された方に近い所だと、敵に攻撃される危険があるからだ。
とにかく少しでも物を運び出さねばならない。
今後も生き残る為には、少しでも多くの物資が必要になる。
今のうちにそれを回収せねばならなかった。
幸いな事に、帰るに帰れなくなった輸送部隊のトラックがそこで立ち往生していた。
戦線を突破してきた敵によって道が分断されて戻れなくなったのだ。
補給所に向かった班員からそれを通信で聞いたタクヤは、即座にそれらにも物資回収を手伝わせるように言った。
人手は多ければ多いほど良い。
これ幸いとタクヤは、行き場を失った連中を動かしていった。
その他、後方にいた連中をも動かして、機関銃などを設置させていく。
前線を突破して侵入して来た連中を少しでも撃退するためだ。
押し戻すことは無理でも、進みを遅らせるくらいの努力はせねばならない。
幸い、比較的早く動く事が出来た、タクヤのところの機関銃搭載車輌が到着して攻撃を開始していく。
それに続いてやってきた者達が、歩兵銃を手に攻撃を開始する。
更に少し送れて、12.7ミリ機関銃を持ってきた者達がそれで攻撃を開始していく。
膨大な敵を倒すには至らないが、少なからぬ数を残骸にしていく事が出来た。
混乱は思った程大きくはならなかった。
だが、状況が改善する事もない。
突破された戦線から敵がどんどん押し寄せてくる。
それらを撃退する事は出来ない。
せいぜい、勢いを弱めるくらいだ。
絶対的に火力が足りない。
周囲から手の空いてる者が集まり、攻撃を加えてはいる。
だが、それ以上に敵が押し寄せてくる。
前線に展開してる部隊が、攻撃力を失ってるのだ。
弾丸が足りない。
自動機銃座の弾薬が切れている。
それ以前に、故障をして動かなくなっている。
更に、兵士や戦闘員が攻撃を受けて倒れてしまっている。
それらが突破された付近で起こっていた。
修復しようにもそれもままならないまま、問題を押さえ込んでいた何かが決壊した。
せき止めていた何かはそれにより奔流となって流れだし、とどまる事をしらない。
出来る事と言えば、その勢いを弱めるくらいであろう。
どうにか支えていた戦線は、こうして崩壊を始めていった。




