30話 襲来 7
戦線の全てで円滑な動きが行われてるわけではない。
補給所から戦闘部隊への弾薬などの供給もそうだし、兵員の交代もだ。
タクヤのところはかなり無理矢理に物資を強奪しているが、同じ事が他でも出来るというわけではない。
むしろ、弾切れすれすれになってるような所がほとんどだった。
前線の状態を見て的確に供給……出来ていればいいが、そんなに上手くいくわけがない。
たいていのところは、補充の催促が来てから弾薬を用意していくくらいだ。
だいたいの場合、それでは遅くなる。
弾薬の減り具合を見てネットワーク端末に催促のお願いをするのだが、それへの対応で遅れる。
報せを見て用意するのではどうしても遅れがちになる。
そうでなくても補給所も人手不足だ。
そうそう簡単にあちこちからの注文に対応出来るわけがない。
無理をしてでも人を割いてトラックごと乗り込むタクヤが異常なのである。
また、渡される弾薬も必要な量とはいいがたい事が多い。
一応持ちこたえる事は出来るが、持ってきて再装填してすぐに弾切れの心配をするというありさまだった。
充分な量の弾丸を渡せばよいものだが、一度に渡す量などが規則などで制限されている。
それでも追いつかない場合は、各担当者の裁量で手渡す量を増やしても良いのだが、そんな度胸のある者はいない。
状況がどうであろうと、定められた規則通りにやろうとするのが係員というものだ。
あちこちの補給所の担当者達も、そんな連中が大半である。
前線で足りなくなってるのでは、とは思うのだが、己の裁量で判断する勇気がない。
規則通りにやるべきか、ここで踏み出すべきなのかで迷ってしまう。
そして、迷えば当たり障りのない規則通りの動きを優先する。
そうしていれば、処罰などを受ける事は無い。
組織がもつ事なかれ主義というか、自由裁量を認めない規則主義というか。
それらが状況に応じて臨機応変に対処せざる得ない現実を無視していく。
前線では弾薬が足りないのに、補給所には積み重なってるという事態が発生するのはこういった理由による。
これは組織の宿痾というべきものなのだろう。
巨大な組織を動かすには規則で動きを制定するしかない。
その規則が束縛となって異常事態への対処を遅らせる。
自由裁量を認めていても、その裁量をどこでどのように使うのかが分かって無いのもある。
規則と自由の境目が不明確だからだろう。
担当者が、独断で自由裁量に踏み切る事を躊躇してしまう。
自由裁量は定められていても、実質的には存在しないも同然だった。
こういった組織として問題と同時に、個人単位での限界も発生していく。
当たり前だが、人間は動き続ける事は出来ない。
やがては疲労によって動けなくなる。
なので、適度な間隔で休憩を入れねば長時間の活動は出来ない。
戦闘のような極度の緊張を強いる行為はなおさらだ。
精神的な緊張が体に余計な負担を与え、疲労を大きくしていく。
大半が自動化した機銃座が対処するとはいえ、人が不要になってるわけではない。
可能であるなら交代して事に当たらねばならないのだが、その余裕がない。
途切れる事無く押し寄せる敵は、そんな隙をこれっぽっちも与えない。
次第に人が引き起こすしくじりが増えていく。
一つ一つは小さなものだが、その積み重ねはより大きな破滅へと続いていく。
少なくとも、全体の動きが落ちてきてるのは確かだった。
自動化されてる機銃座や砲台も徐々に疲労が出始めている。
こちらは、撃ち続けてる銃身加熱などが問題だった。
この手の自動兵器は冷却装置がついてるので、一般的な銃などよりは連続して撃ち続けられる時間は長い。
しかし、それでも限界はやってくる。
銃身・砲身の交換は避けられず、その瞬間に攻撃は一旦停止する。
それを補う為に、駆けつけた人が一時的に射撃を肩代わりする。
そんな事を繰り返しながら、どうにか自動兵器を動かしていっている。
何より、これまで無かったような長時間の戦闘が、想定稼働時間を超えたものになっていく。
致命的なものは発生してないが、自動兵器にも少しずつがたつきが生まれつつあった。
連続する戦闘がもたらす問題が戦場全体に蔓延してく。
それらはかろうじて維持していた戦線に穴を開け、崩壊を促そうとしていた。
その事に気づいてる、そうなってきてるのではないかと思ってる者達もいる。
いるが、対処が出来るわけもない。
目の前の敵をどうにかせねばならず、他の事に手が回らない。
仮に余裕があったとしても、問題を解決する手段が無い。
人に休息をとらせる余裕もない。
機械の問題をなおす知識や技術もない。
できる事と言えば、注意を促すくらい。
それが問題を解決出来る者にとどくこともない。
届いても、解決に着手する事も出来ないまま時間が過ぎていく。
潜在的な問題が現実になるまで、そう長い時間はかからなかった。
続きは20:00予定




