29話 襲来 6
「そりゃまあ、本来ならこっちの仕事だけどさあ……」
「まあ、そういわずに」
無理矢理連れてこられた補給所の人間は、苦笑しながらも物資を届ける役目を担っていく。
タクヤ達が荷物をもっていくので、補給所の人間は少しだけ手があいていた。
そこに目をつけられてタクヤの所に引っ張り込まれてしまった。
それでも、本来なら自分達が前線に届けねばならないのだからとあちこちを回っていく。
物資輸送の人員はこれで確保が出来た。
「でも、まだまだあちこち不足してるから、どんどん運び込んでくれ」
班員達も変わらずあちこちを走り回っていく。
今のところ、休む暇もない。
しかし、面倒な事ではある。
動きの悪い補給所から一旦タクヤの近くの補給所に物資を流し、そこから前線に送り込んでいるのだ。
面倒な迂回路が出来上がってしまっている。
その分の無駄が非常に大きい。
これが無ければかなり迅速に物資を振り分ける事が出来る。
それが出来ないのは、補給所を預かってる幹部のせいである。
さすがにその存在が邪魔になってきていた。
「どうする?」
「このままこの調子じゃ、さすがになあ」
「じゃあ、やっちまうか?」
「そうするしかないかなあ……」
補給の采配をしているタクヤとその周りの連中は決断をくだすかどうか悩んでいた。
さすがにモンスターや敵機械のようにとはいかない。
邪魔であるが、簡単に処分ができるわけではない。
「どうやって処分する?」
「まあ、敵の所に放り込めば、跡形もなく片付けてくれるだろうけど」
「もし後に残ったら面倒だな」
物騒極まる相談が真剣に進められていく。
「ただ、これ以上居座られると、俺達の命があぶないから」
「もう迂回して回してる暇もなくなってきてるし」
「やるなら早いほうがいいしな」
敵の数が増えてきてるので、もう余裕も無くなってきていた。
「やるしかないか……」
「やるしかないよなあ……」
前線に殺到する敵機械を撃破しながら、彼等は決断をくだしていく。
1時間後。
効率の悪かった補給所から、そこで指揮を執っていた幹部が消えた。
トイレなのか休憩なのか分からないが、席を外してから戻ってくる事はなかった。
とはいえ、それで何かが滞るという事もなかった。
むしろ、いなくなったのを幸いと、その場に者達が作業を進めていく。
前線の要望に沿って物資を動かしていく。
一々責任者の承諾を得ることなく、必要と言われたものを補給所は必要なだけ提供していった。
動かした分の物資は記録をとるが、本来必要な承認などは全て無視していった。
おかげで物の流れが円滑になっていった。
それでも責任者がいないのはさすがに問題ではある。
なので、その近くにある補給所の責任者が、臨時で幹部のいなくなった補給所の責任者を兼ねる事になった。
とはいえ、既に事後承諾でどんどん物資を流していた場所の責任者である。
管理がそれで厳しくなるわけもなかった。
既に為されていた、出入りする度に増減する物資の量だけを把握してれば良い、という手法がもう一つの補給所でも適用されて終わった。
なお、姿を消した幹部であるが、戦闘終了後も結局姿をあらわす事はなかった。
信憑性のない噂では、トイレか休憩で席を外して、そのまま逃亡したのではないかと言われた。
そのまま行方不明扱いになり、以後の消息は不明となっていく。
余裕があれば捜査や調査などがなされるのだろうが、そんな事をしてる暇は無い。
敵との戦闘が優先される中で、さして重要でもない人間の消息などを調べる余裕などない。
いなくなったというなら、消えたという事実だけが記録されるだけである。
あとは誰も省みる事もなく、時間の流れに押しだされていく。
おそらく、戦闘に巻き込まれたのだろうと思われながら。
おぼえているのは、家族や友人知人、戸籍だけ。
それらも、いなくなった人間にいつまでもかかずらってるわけにもいかない。
日々の生活の中で、より重要で優先度の高い事をこなしていかねばならない。
いない人間の事だけを気にしてるわけにはいかない。
それがさして重要でもない存在ならばなおさら。
この日消えた者は、所詮その程度の人間だったという事である。
何より、戦場にいるというのは、こうした事が当たり前だ。
誰がどこでどうやっていなくなったのかなど、そうそう記憶されることも記録される事も無い。
いなくなったなら、おそらく死んだのだろうと考えられる。
そこまでしっかりと最後を見られてる者などそうはいない。
詳しい事情など、誰も分からないのが普通であった。
物の流れが円滑になった事で、前線は持ち直していった。
確認出来るタクヤの周辺では、それなりの好調である。
敵は相変わらず多いが、それもどうにか片付ける事が出来ていた。
出来ればこの状態を保ちたいと誰もが思っている。
そう上手くいくとは思っていなかったが、上手くいくと思っていたかった。
思い込もうとしてもいた。
だが、現実は容赦なく事実だけを浮かべていく。
タクヤの周辺は、非常手段をとった事もあり比較的好調だった。
だが、全部がそうだというわけでもない。
当たり前の事だ。
その当たり前がそこかしこにあらわれていった。
続きは17:00予定




