2話 最前線の大陸、玄関口の港
異世界、日本国領新地道。
新たな都道府県となった異世界におけるその領土は、あるようでない。
他国という存在がないので、いってしまえばこの異世界そのものが日本領土となる。
その中で新地道の範囲となると、これまた異世界全部となっていく。
あくまで地球の、日本の考えを持ち込めばである。
なのだが、他に誰かがいるわけでもないので、そう宣言してしまえばそうなる、という事であった。
しかし、その異世界においても、境目がひかれていった。
あられた別の存在によって。
それらは、敵として日本の、人類の前にあらわれた。
これらに対しては様々な紆余曲折を経て、対抗していく事で意志がまとまっていった。
少なくとも現地である新地道自治体においては。
それは日本国政府の意志とは全く違ったものとなったが、それらを考慮しているほどの余裕は新地道にはなかった。
出現した敵(と新地道の者達は認識した)の拡大の速度は早い。
そのままでいけば、出現した大陸にひろがり、海を越えて他の大陸にも至るだろうと予想された。
そうなる前に対応をとろうと、新地道は動き出した。
その前提は戦闘であり、これが日本本土との決定的な差になった。
それから本土との間に様々な軋轢と衝突が起こった。
ただ、それらによって足を引っ張られるわけにもいかなかった。
放置すればいずれ自分達への脅威となって、障害となって敵はやってくる。
そうなる前に、敵の活動を阻止せねばならなかった。
急速に拡大していく敵は、何を求め、何を目的としてそうしてるのかは分からない。
しかし、接触を試みた調査団がたどった全員死亡という結果を、道民全体に及ぼすわけにはいかない。
放置して勢力を拡大した敵が、道民全体に同じようなことをするかもしれないのだ。
それは、新地道の首都である新開市にある大穴を通って日本に、地球にまで及ぶかもしれない。
軋轢や衝突があっても、さすがにそれは寝覚めが悪いので、新地道は独自に敵と戦う事を選んでいった。
そうした対処の一つが、敵が出現した大陸への進出。
そこに拠点となる場所を作る事だった。
地球より広大な惑星と、そこに拡がる広大な海をまたいでの事業となった。
間にある大陸にも、寄港できる場所を作るという壮大な計画である。
出現した存在(今となっては敵)に接触するために作られた施設を大幅に改修する事となった。
港を始めとした施設や設備を建築し、拡大・拡張してった。
小規模な調査団ではなく、大量の人員や物資を運び込む為の拠点が、通り道となる沿岸に作られていった。
そしてその先に、目的の大陸に玄関口として都市が造られた。
巨大な港と空港を持ち、数万の軍隊の拠点となるべき場所である。
元々そこは軍隊の基地機能だけを設置するつもりであった。
しかし、何時になれば終わるか分からない戦争を考え、ある程度の部品は作れるようにと工場が造られた。
そうして作業員が常駐するようになれば、それを相手にした商売も展開される。
更には、それらの家族が住む場所も出来上がる。
軍事基地だけのはずが、気が付けば十数万人の人間が住まう都市が建造されていた。
しかもこれは、いまだに拡大と拡張を続けている。
簡単な補修部品だけでも作れれば良い、という程度の生産設備進出は、なぜか植民と言えるほどの大規模なものとなっていった。
それでも、元は軍事施設だっただけに、無機質で機能性だけが重視された作りではある。
遊ぶ所が少ないのもそれを示していた。
住民の比率も、どうしても軍人とその家族が多くなっている。
企業の人間も、他に比べれば戦闘部隊の比率が多い。
それだけ脅威の近くに展開してるという事でもあった。
そうやって出来たこの町は、その機能と目的を元にこう名付けられた。
──兵衛府(ひょうえふ)。
この兵衛府に異世界における戦力の大半が集中するようになっていった。
陸上戦力だけでなく戦闘機・戦闘艦艇などが集結している。
そして、ここでの戦闘を支える為に、常に様々な物品が送り込まれていた。
そのおかげか、出現している敵は大穴のある大陸から外に出てはいない。
戦線は硬直状態ではあるが、よく保っている。
実質的に異世界側の人間だけで戦闘を行ってるのだから驚異的と言えた。
そんな兵衛府の片隅で、立橋タクヤは今日も仲間と共に基地周辺での活動を続けていた。