28話 襲来 5
「おう、大漁大漁」
戻ってきた者達の持ってきた荷物を見て、タクヤは笑みを浮かべる。
「やっぱりあったか」
そう言って見つめるのは、消費が激しい弾薬ではない。
ロケットランチャー(発射器)に無反動砲、迫撃砲などなど。
そして、これらの弾薬だった。
「でも、いいんですか、ここまで持って来ちゃって。
さすがにまずいと思うんですけど」
「大丈夫だって。
どうせ使われずにしまわれてたんだろうから。
だったら俺達で使ってやろうぜ」
そう言ってタクヤは、それらを周りの連中に配っていく。
ロケット発射器や無反動砲はさすがにすぐには使わないが、迫撃砲はすぐに使えるようにしていく。
幸い、研修や講習を受けて操作法をおぼえてる者がいる。
頻繁に使ってるわけではないので手もとがおぼつかないが、一応発射が可能な状態になっていく。
それを見てタクヤは、
「まだまだ数が足りないから、もっとかっぱらってきて」
と補給所への強奪要員に指示を出していく。
聞いた者達はそれでいいのか、と呆れてしまった。
「あ、そうそう」
「ん?」
「さっき、補給所で言われたんですけど」
「なんだ?」
言われた事を補給所に出向いた者達はタクヤに伝えていく。
それを聞いてタクヤは、呆れて憤った。
「なんだそりゃ」
補給所が、必要な分量を考えずに物を配ってるという話である。
聞いてて頭を抱えたくなった。
物資管理が必要なのは分かるが、それぞれの状態を無視してやってるのでは意味がない。
前線の各部隊が戦闘を継続する能力を失ってしまう。
「分かった、こっちで調整をしよう」
前線部隊にあるまじき事をほざいたタクヤは、すぐに伝令を飛ばし、通信端末を確かめていく。
端末で物のやりとりをのせる事はしない。
それをやれば、すぐに上層部などに目をつけられる。
記録にも残ってしまう。
なので、必要な物資の確認は伝令で行うしかなかった。
だが、各戦線の状況は通信端末で把握出来る。
無線で繋がったネットワークが、タッチパネルを兼ねた画面に状況を映し出していく。
まだ何とか応戦してるところ、増援が必要なところ、押し切られそうなところなどが表示されている。
いずれもその場にいる者達が入力してるので、正確さや信憑性があやしいところもある。
だが、それでもおおよその目安にはなる。
そこには、必要な物資なども示されている。
「こことここか……」
まずは弾薬が必要といってる所に表示していく。
何がどれだけ必要なのかも、大雑把ながら示されている。
とりあえず持ってきた弾薬などをそういった所に運ぶ事にする。
「おーい、ちょっと行ってきてくれない?」
「分かりましたー」
バギーに乗った連中にそれを頼んでいく。
それらのバギーには、補給所にあった牽引車を取り付けて運搬能力を確保してある。
積載量は自動車などには劣るが、弾薬程度を運ぶなら問題は無い。
何より小回りがきくので、ろくに舗装もされてない道を進むには都合が良い。
それに、前線の通路は基本的に狭い。
そんな所を自動車などで走るわけにもいかなかった。
「じゃあ、行ってきます」
「おう、気をつけて。
ついでに、何が必要なのかも聞いてきて」
「分かりましたー」
返事をしながら走り出すバギー。
それを見てタクヤは、次の指示を出す。
「じゃあ、補給所に行ってもっとかっぱらってきて。
他の所に回せるくらい」
ガントラックと荷車をひいたバギーがすぐに走り出した。
当面、戦力にならないそれらは、補給所から物を運んでくるために使われている。
それらがまた荷物を持って帰ってくるまで、タクヤ達は前線で作業尾続けていく。
タクヤ達のところにも敵がようやく回ってきたようで、さすがに忙しくなっていた。
12.7ミリ機関銃を中心に、各自が攻撃を行っている。
機銃座などへの再装填も行い、とにかく戦線維持につとめていた。
また、補給所にあった、予備の12.7ミリ機関銃なども強奪し、火力の増強につとめている。
効果があるとはいえ7ミリ機関銃や歩兵銃では力不足だからだ。
さすがにまだ迫撃砲までは使って無い。
それらはもう少し敵が迫ってきてから使う予定であった。
それと同時にタクヤは、周囲の状況把握につとめていた。
戦線の状況を見て、危険な所にとりあえずの物資を持っていく。
弾丸なり手榴弾なり、とにかくあって困らないものを。
そうする事で、相手の信頼を獲得していく。
手ぶらで行って用件を聞いても信用はされない。
むしろ、「忙しい時に話しかけるな!」と怒鳴られて終わるだろう。
だから、多少なりとも手土産を持っていく。
自分達は使えると印象づけるために。
それから必要なものを聞き出した方が早い。
「こっちには多少余裕があるから融通する」と言って。
そうなれば、相手も欲しい物を口にする可能性が高くなる。
それを聞いたら一旦戻ってきて、必要な物を再び持っていけば良い。
そこまでやれば、相手もこちらを信じる事になるだろう。
確実にとはいえないが、そうなる可能性は高い。
あとは行ったり来たりの往復で済むようになる。
その都度必要なものを聞いてくれば良いので手間も省ける。
ついでに強奪してきた機関銃などを持っていって、火力の増強にも貢献する。
戦線の補強のためにも、火力の向上は必要不可欠だ。
これを繰り返してタクヤは、周囲の状況を把握していった。
あくまで伝令が行ける範囲だけではある。
移動時間が長くなりすぎる辺りまではさすがに手が回らない。
だが、さほど時間もかからずに行ける範囲の状況はかなり正確に把握していった。
「そろそろあそこで物が足りなくなるかな……」
大雑把ながら予想をして物を配分していく。
自分が一応は戦闘部隊にいるから、何がどれくらいで消耗するのかが分かる。
そこにある銃器の数から、何がどれだけ必要なのかは察しがつく。
補給所にからそれらを強奪してきて、必要なところに配っていく。
それは今のところ順調だった。
ただ、それを続けるための人手が足りなくなってきていた。
行ける範囲だけでやっているのだが、それでも色々なところに手を回しすぎたかもしれない。
「人が欲しいな……」
とはいえ、自分のところの班員をこれ以上割くわけにもいかない。
少しだけ思案して、ふと思いつく。
「それじゃ、今度は人をつれてきてくれ」
補給所から帰ってきた者達に、タクヤはそんな指示を出した。
さすがにこれには戻ってきた者達も面食らった。
今日はここまで
続きは明後日の予定




