27話 襲来 4
「おーい、こっちに弾薬頂戴」
「燃料も」
「はいはい」
前線の後方、物資の集積されてる補給所。
そこで暢気な声でやりとりが行われている。
「こっちの弾薬、どうなの。
まだ在庫ある?」
「あとで補給が来るっていうから大丈夫だと思うけど。
ちゃんと届くかどうか分からないからねえ」
「あらまあ」
もし届かなければ一大事である。
にも関わらず、その場にいた者は苦笑するに留まる。
「まあ、無いならないでどうにもならないしな」
「そん時にゃあ、逃げるいしかねえわな」
不届きな事をのたまいながら小さく笑い声を上げる。
「でもまあ、本当に足りなくなったら、他の補給所からかっぱらってくるから」
「いいのか、そんな事して?」
「何言ってんの。
無断で勝手に持ち出してるあんたらが言うか?」
「それもそうだな」
「確かにな」
「そうでしょ、そうでしょ」
再び笑い声。
「まあ、一々許可をとってたら話しが進まないし。
前線が機能しなくなったら、俺達が死ぬしねえ」
「だからこうして融通してもらえると」
「そういう事。
それもこれも、そちらの大将のおかげだけど」
現在、補給関連を実質的に掌握してる男が出てきた。
「うちのノロマに任せてたら、こうはいかなかったよ」
「あの幹部の?」
「そう……即席培養のね」
「ありゃまあ、ここにもいるんだ」
「いるんだよ、これが。
普段はそこそこ頑張ってるけど、こういう忙しい時にはね。
そこは、お察しってものよ」
「しょうがないんだろうなあ」
「むしろ可哀相だわ」
物資を無許可で取りに来た連中が、哀れみを口にしていく。
彼等も、即席培養の連中がこんな事態に直面して動転してるだろう事は予想している。
それを責めるのも酷だと理解する程度の人間性は持ち合わせていた。
「まあ、黙って見逃してくれてるから、あまり文句もないけどね」
「そこらへんはありがたいな」
「変に仕事熱心じゃないのは助かる」
「そこはうちの盆暗も分かってるみたいなんだよ。
変にあれこれ指図したら余計に悪くなるって。
だから、何をどこに持ち出したのかだけ報告するようにだけ言われてるよ。
どのくらい在庫があるのかだけ、正確に分かればいいって」
事実上、勝手な持ち出しの許可である。
物資管理からすれば厳罰どころでは済まない事である。
「そりゃまた凄いな」
「自分が何も出来ないって分かってるらしいんだ」
「それにしてもなあ。
勝手に持っていくのを許すってのも大概だぞ」
「だから、何をそれだけ持ち出したのかだけ記録しておけって。
数字が合わないのが一番困るからって」
ある意味正解ではあるかもしれなかった。
管理で一番問題になるのは、書類上の数と実際にそこにある現物の数が食い違う事である。
そこが帳尻合ってれば良いというのは、あながち間違ってる事でもない。
「おかげでこっちも楽は楽なんだよね、一々指示に従ってるよりは。
数だけ報告しておけばいいから」
実際に物を扱ってる現場の人間からすれば、面倒が無くてありがたかった。
「でも、うちはまだいいけど、他が大変みたいなんだよね」
「なんかあったの?」
「ああ。
物の管理をしっかりしようとあれこれ口出ししてさ。
前線に送り込む分が足りなかったり余分だったりするみたい」
「まずくね、それって」
「まずいよ、凄えまずいよ」
口調は冗談めかしているが、言ってる全員が顔を強ばらせていく。
「それで戦闘が出来なくなったら、前線が壊れるわな」
「だよな」
「そうなるよな」
簡単に予想出来る成り行きに青くなっていく。
「だからさ」
「うん?」
「俺らがそっちから物資をかっぱらってくるから、足りない所にもっていってもらいたいんだ」
「いいのか?
いや、出来るんならやるけど」
「ああ、こっちで物が足りないって言えば、そこは融通できるから。
だから、そっちに持っていって上手く分けてくれ」
「分かった。
しかし、そういうのって本当はそっち(補給部)の仕事だろ?」
「そうなんだけど、それが出来ない奴が上にいるから」
仕事が出来ないのに指示だけ飛ばす──最も居て欲しくない奴がそこにいるようだった。
「いっそ、敵が片付けてくれないかって思うよ」
「むしろ、俺が片付けたい」
「俺も」
「出来るならお願い。
本当にまずいから」
本来なら許されない事だろう。
だが、今は全員の命がかかってる。
前線にいる者達の、補給などの後方で働いてる者達の、更にいうならば、兵衛府にいるありとあらゆる者達の。
その命がかかってる。
たった1人のためにそれらを危険にさらすわけにはいかなかった。
「おーい、どこに置けばいい?」
不穏な話しを中断させるように大声が響いた。
いつの間にかやってきた輸送トラックの運転手が、荷物の置き場所を求めていた。
それを見て、補給所の者がそちらに向かっていく。
「それじゃ、さっきの話し、よろしくな」
「ああ、伝えておくよ」
そう言いながら必要なものを揃えた者達は前線に戻っていく。
補給所の者はそちらを見る事もなくトラックへと向かっていく。
「こっちこっち、それはこっちに持ってきて!」
「おうよ!」
空いた場所に荷物を置くべく、トラックが補給所に入ってくる。
手の空いてた者達が一斉に駆け寄り、荷台から荷物を下ろしていく。
少しだけ在庫量を回復させた補給所は、届いた荷物の整理や管理でまた忙しくなっていく。
敵が襲いかかってきてるわけではないが、ここも大忙しであった。
22:00に続きを




