26話 襲来 3
タクヤ達が勝手な事をしてる間に、敵と接触してる前線は壮絶な戦闘に突入していった。
敵を倒す事そのものはさほど難しくはない。
だが、数が問題だった。
倒しても倒しても後続がやってくる。
敵の流れを押しとどめるのも難しい。
様々な攻撃が行われているが、それらが敵の勢いを止める事はなかった。
「こいつら、全然減らないぞ」
「おい、弾丸が無いぞ」
「早く持ってこい!」
「補給はまだか」
そんな声があちこちから上がってくる。
押し寄せる敵に比べて、銃口が全く足りてない。
敵は兵士が使う7ミリ歩兵銃の威力で充分に倒せる。
ただ、何発か撃ち込まねばならない。
それだけの耐久力がある。
なので、どうしても倒せる数に限界が出来てしまう。
全ての銃弾を命中させても、それだけで倒しきれるわけではない。
こういった事があちこちで起こっていく。
自動的に動く機銃座も、銃弾がすぐに無くなっていく。
そばにいた者達がすぐに補充をするのだが、補充するための弾丸がすぐに無くなっていく。
その都度追加を求めて補給所まで行くのだが、そこで隙間が出来てしまう。
空から攻撃する軽飛行機やヘリコプターも同じような状態に陥っていた。
搭載している12.7ミリ機関銃は簡単に敵を倒していく。
歩兵用の銃とは比べものにならないほど簡単に。
しかし、押し寄せる敵の数に対して、それらはささやかな反撃にしかなってない。
上空からの一方的な攻撃も、倒せる敵の数を考えればさしたる利点にはなってない。
それでも戦線の維持に少なからぬ貢献はしている。
だが、攻撃を加える者達は、自分達のやってる事に意味があるのかと思ってしまう。
徒労をおぼえる彼等は、それでも弾丸が切れれば補充のために戻り、再び空にあがっていく。
その度に見る事になる敵の膨大な数に辟易しながら。
幸いなのは、敵が密集してる事であろうか。
それが長距離砲や迫撃砲による広範囲攻撃の威力を高めている。
着弾地点の周囲に破片をばらまく砲弾により、敵の隊列に穴を開けていく事が出来る。
だが、それも焼け石に水なのではと思わせる。
どれだけ隊列に穴があいても、敵の列が途切れる事は無い。
戦闘が始まってそれなりの時間が経過してるが、敵の流れはいまだに途切れる事は無い。
その間に開いた穴など、全体からすれば微々たるものに思えてしまう。
上空からの偵察や衛星からの観測で、敵の流れはおおよそ把握出来てはいる。
それらは敵の支配地のあちこちから流れこんできている。
続々と集まってくるそれらは、前線に向かっていくうちに一つの流れとなっていく。
とてつもなく長く太いものだった。
機械の大河といって良い。
それらが生まれてくる施設を破壊しているが、それでもまだ全体の流れを途切れさせるには至ってない。
前線近くにある、戦闘機でも到達出来る範囲にある敵施設は既に破壊されている。
そこからの増援は今の所発生していない。
再建のために敵の機械が活動してはいるが、それらも完全な再建にまでは至ってない。
時間が経てばそれらの効果が出て来るだろうとは思った。
なのだが、それでも敵の数が多い。
文字通り総力をあげておしよせてきてるようだった。
このままの勢いが続けば、敵が途切れるより早く前線が崩壊すると考えられた。
ありったけの兵士と武器弾薬が前線に放り込まれていく。
少しでも前線を支えるために、戦力の補充はされていく。
だが、それらが現地に到着出来るかどうかと、到着して効果的に動けるかは別になる。
移動するにも道路というか、移動出来るだけの場所が必要になる。
それがふさがっていれば身動きがとれなくなる。
ひっきりなしの補給で前線と補給所の間は常に誰かが通っており、それらが交通の邪魔をする。
また、届いた兵員にしろ弾薬にしろ、それらを案内する者達が混乱している。
常に変化する状況が管理能力を超えてしまっている。
その為、無駄に立ち往生する者達が出てくる。
行き先が不明になってしまってる弾薬や武器が出てきてしまっている。
前線では弾薬がないのに、補給所では山積みになってるという事態も生まれている。
抜け目のない連中は、そうした補給品の山を強奪して自分達の所に確保していく。
変に真面目な所は、律儀に補給が回ってくるのを待って割を食う。
全体として混乱が生まれ、それらが留まる事を知らない。
部隊毎に戦闘能力、正確に言うならば戦闘継続能力に差が出てきていた。
皮肉な事に、これを解消してるのが、好き勝手に動いてる連中の横の連携だった。
とりあえず補給所から奪ってきた物品を前線部隊の間で融通していく。
上層部では把握出来ない細かな部分を、現地で解消していく。
これにより、戦闘継続に必要な武器弾薬などがギリギリで各所に行き渡っていた。
「おーい、こっちはどうだ?」
「まだどうにかなってますね」
「それより、あっちがまずいですよ」
「じゃあ、持っていってやってくれ」
「了解」
「それと、補給所に行ってもっとぶんどってこい。
燃料もこのままじゃ足りなくなる。
あと、食料」
「分かりました」
タクヤの部隊ではそんな声が上がり続けている。
戦闘の方も既に始まっているが、それよりも周辺の部隊に分配する補給品の調達の方が大変になっている。
とにかくトラックで補給所まで出向き、そこから必要になるものをかっぱらってくる。
そのままトラックで前線を巡り、必要だと思えるものをおろしていく。
こんな事を繰り返していた。
必要になるトラックは、周辺各部隊からかき集めてきていた。
それらが臨時の運搬部隊となって周辺を巡っている。
既に敵は目の前に来てるのだが、それよりも周りとに配る物品の手配の方が忙しくなっていた。
「敵の方はどうなってる?」
「新人が頑張ってくれてます」
「なんとかなる?」
「今のところは。
それよりも弾薬の減り方がまずいですね。
補充がなければすぐに突破されますよ」
そんなやりとりが先ほどから続いている。
「まあ、新人のための訓練とすりゃあありがたいけど」
「とんでもない実地研修ですね」
「OJTっていうんだっけ?
まあ、そういうもんだと思って頑張ってもらおう。
生き残れば、掛け替えのない財産になるよ」
「手に職をつけるって事ですか?」
「そういう事。
敵がいるうちは、必要になる技術だから」
言いながらあちこちに指示を出していく。
「向こうの方はどうなってる?」
「やっぱり弾薬が足りてないみたいですね」
「こっちは食料が。
あと、携帯トイレも」
「まあ、わざわざ便所に行ってるわけにもいかないわな」
「こっちは防御用に鉄板が欲しいって言ってますよ」
「補給所にあるのか?
あるなら持っていってやって」
「了解」
「あと、交代要員も来てますけど」
「ああ、連れてきて連れてきて。
そろそろ休ませないといけないし」
「でも、どこで休みます?
テントもないですけど」
「あるならかっぱらってきて。
無いなら、ビニールシートとかで作るしかないかも」
押し寄せる敵への対処以上に、後方作業の方を頑張らねばならなかった。
何せこのあたりの指示はほとんどきていない。
やれる者がどうにかするしかなかった。
20:00に続きを




