24話 襲来
前線の設備も増強され、戦闘部隊の者達も増加していった。
このままいけば、敵を押しのける事が出来ただろう。
大穴までは無理にしても、前線を押し上げる事は出来たはずだった。
だが、敵も大人しく待ってるわけではない。
それは前触れもなく突如発生し、人類に襲いかかってきた。
「おい、これ」
最初に気づいたのは、観測衛星からの情報を得ていた者達であった。
「敵が、前線の表に押し寄せてるぞ」
即座にその情報は上層部にまわされていった。
とにかく、即座に対応が必要な事態である。
「これが向かってきたら……」
おそろしい予想に言葉が止まる。
おびただしい数の敵が一斉に兵衛府へと向かってるのだ。
前線を突破したらどうなるかなど目に見えている。
「まずい、まずいぞ」
それを見た誰もが同じような事を思っていった。
同じ事は前線で監視をしていた改造軽飛行機の操縦士も口にした。
「なんだこれ……」
見た事もないような数の敵が迫ってきている。
上空1000メートルからもそれは伺えた。
「緊急、緊急!
敵の接近を感知。
凄い数だ。
今までの攻撃とは桁違いだ。
地面全部が、あいつらで埋まってる」
その報告を通信機に向けて何度も繰り返しながら、搭載した撮影機材で様子をおさめていく。
それらは無線で基地に送られているはずである。
だが、カメラでそれらをおさめきれるかどうかは分からない。
何せ、通信で報告したように、敵は地面を覆い尽くすほどあふれている。
それらをカメラの限定された視界におさめるのは無理だった。
出来る限り状況をとらえるようにしていくが、上手くいくかは分からない。
それでも哨戒に出てる彼は、自分の仕事を全うしていく。
「これ、帰る場所が無くなってるんじゃ……」
そんな不安を抱きながら。
敵接近の報告を受け、兵衛府は迅速に行動を開始していく。
前線の部隊には戦闘態勢に入るように指示が出されていく。
弾薬などの輸送も前倒しで進められていく。
現在倉庫にあるものを残さず前線に送り込む勢いだった。
送られて来る情報を考えれば、それでもまだ足りない程だった。
「とにかく敵が多い。
すぐに出来上がってる分を持ってくるように伝えろ」
後方の生産地で作られてる在庫すらも欲しかった。
もちろんすぐにやってくる訳もない。
多くは船便で輸送されるので、そう簡単に到着するものではない。
「この際、航空機の輸送を使ってでも弾薬を持ってこさせろ。
でないと敵に押し切られるぞ」
費用の高い航空便は、さほど使用されてるわけではない。
急ぎの用件の場合だけ用いられるのがほとんどだった。
だが、目の前に迫る敵の情報を見た兵衛府の上層部は、即座に何を優先すべきかを理解した。
無限と言いたくなるほどの敵を撃退するには、相応の弾薬が必要になる。
燃料やその他の消耗品も。
それらを急いで調達出来なければ、敵の勢いに飲み込まれる。
それだけはどうやってでも防がねばならなかった。
あらゆる戦力が前線に投入されていく。
戦闘機に爆撃機は、搭載出来るだけの爆弾をのせて前線に向かっていく。
といっても、敵を直接攻撃するわけではない。
目標は敵の生産施設。
そこを叩いて後続の増産を阻むのを求められている。
後から後から押し寄せてきたら、それこそいつかは押し切られる。
それを防ぐ為にも、敵の数を根本から減らさねばならなかった。
施設を破壊すれば、そちらの復旧に人手を割くことにもなる。
ほんの少しでも前線に殺到する敵を減らすためにも、敵施設を可能な限り破壊せねばならなかった。
ただ、戦闘機はその帰りで敵を機銃掃射していく事にはなる。
施設の破壊は出来ないが、押し寄せる敵を粉砕する事は出来る。
少しでも敵の勢いを削ぐために、たとえ小さな事でもやっていく必要があった。
前線の戦闘部隊は、非番の者までかき集めて戦闘準備をしていく。
機銃座・砲台は言うに及ばず、兵士や戦闘員も銃を手にあちこちに配置されていく。
設置された固定砲台の隙間を埋めていく形になる。
その彼等の足下には、持ち込まれた予備の弾薬なども置かれていた。
機銃座や砲台の分もある。
それらが弾薬切れを起こしたら、彼等が再装填する事になる。
前線を保つために少しでも多くの銃口が用意されていった。
それでも、押し寄せる敵に比べればあまりにも少なく感じられた。
継ぎ目もなく迫る敵は、それほどまでに多い。
「まさか、俺達までとはなあ」
バギーを走らせながらタクヤはぼやかずにはいられなかった。
膨大な数の敵が迫ってる事は、タクヤ達にも伝えられた。
それと同時に、前線支援のために駆けつけるよう命令もされた。
輸送部隊の護衛としてではない。
前線に貼り付く戦力としてである。
一応は戦闘部隊であるので、こういった命令が出されてもおかしくはない。
だが、あまりにもあんまりな内容に面食らってしまう。
「大量の敵が来るって、そんな所に放り込むなよ」
それほど戦闘慣れしてるわけでもないので、こんな事を言われても困ってしまう。
まして最前線で敵と戦うなど、今まで一度もやった事がない。
上手く出来るかどうか全く分からない。
「まいりましたね」
無線越しに森山も苦々しげな声を上げてくる。
「こりゃ、最悪の状況になるかもしれません」
「だろうな。
俺達まで駆り出されてるんだから」
「逃げ道の準備もしておいた方がいいかもしれませんよ」
「ああ、そうだな」
最悪の場合、命令を無視してでも逃げる事を考えねばならない。
森山の言ってるのはそういう事である。
それもそうだろうとは思う。
整然とした撤退など期待は出来ない。
敵の勢いを止める事が出来なければ、確実に自分達が死ぬ。
そして、全員が逃げ出すとなれば、確実に渋滞になるだろう。
そうなれば、逃げる事も出来なくなる。
その時期の見極めも含めて、生き残る算段をしていかねばなるまい。
「面倒な事になったな」
現地に向かいながら、この先の事を考えていく。
正直なところ、生きて帰れる予想がまったく出来なかった。
22:00に続きを




