19話 苦しい台所事情のやりくり 2
具体的には、取り外し可能な鉄板の追加があげられる。
車輌に鉄板の設置具を取り付け、そこに鉄板を嵌め込んだりする。
こんな事でも、敵からの攻撃を防ぐにあたり、それなりの効果を発揮していた。
これは敵の攻撃方法によるところも大きい。
敵の攻撃は人類の持つ攻撃方法とは違ったものになっている。
工作作業も行う敵機械は、襲ってくる時も工具として用いてる道具を使う。
特によく用いられるのは、溶接用で用いられてるバーナーだ。
これを火炎放射器のように使ってくる。
この場合の攻撃範囲はだいたい10~15メートルほどだが、接近されると厄介だった。
また、このバーナーを利用してるのか、火炎弾と呼ばれるものを投げてくる。
熱した金属で、これをある程度高速で発射してくる。
遠距離においてやっかいなのはこちらの方だ。
有効射程は100メートル程度までなので銃弾ほどの脅威はない。
それ以上になると、飛んでくる間に空気と触れあって冷却されてしまう。
当たれば大怪我になるが、死ぬ可能性はかなり低くなる。
これらに対しては、取り付けた鉄板が意外なほど効果的だった。
火炎弾が発射直後の段階の熱量を保ってるなら大きな脅威である。
しかし、100メートルも飛べば熱はだいぶ発散されてしまっている。
その状態で追加した装甲(鉄板)にあたれば、表面を焦がすか多少溶かす程度で終わってしまう。
車本体にまで影響が及ぶ事は無い。
受け続ければ、鉄板に溶けて出来た穴がたくさん開く事になるが、車体に直接の影響はほとんどない。
鉄板との間にある隙間が、車体まで火炎弾の影響をもたらすのを防ぐからだ。
それに、火炎弾の発射速度はそれほどでもない。
着弾しても鉄板を貫通するほどの威力はない。
30メートル以内の至近距離からの攻撃であればそうもいかなくなるが、遠距離ならば大きな脅威とはならない。
火炎放射による攻撃も同様で、鉄板によって遮る事が出来れば、短時間ならばさほど問題は無い。
受け続ければ危険だが、数秒程度ならば鉄板によってかなり防ぐ事が出来る。
他にも電気的な溶接手段を用いたよる放電や、物品を取る時に用いられるかぎ爪などがある。
これらも生身の人間が受ければ危険なものだが、鉄板を設置した車輌ならば危険は大きく下がる。
前線に出る車輌などは、こうした防御を施して生存性をあげていっていた。
何より大事なのは、純然たる装甲戦闘車両を用意するより安上がりな事である。
軍より更に予算の乏しい企業の戦闘部隊は、こうした方法で生存性を上げるしかない。
他にも、暗視装置や照準装置、探知機などを搭載して戦闘力の向上がはかられている。
ただ、さすがにこういった機器は導入に金がかかりすぎるので、それほど普及はしていない。
それに、車の搭載能力にも響いていく。
これらを全て搭載すれば、その重さは相当なものになる。
燃費も悪くなるし、最高速度も落ちる。
加速性も当然落ちるので、緊急の回避が間に合わなくなる事もある。
エンジンを強力なものに、足回りとタイヤを強固にすれば多少は解消されるが、そこまでやるとなると手間と金がかかりすぎてしまう。
それならば、軍用の車輌を導入した方が安上がりになりかねない。
一般販売されてる車輌を用いる理由がなくなってしまう。
一般車を用いる最大の利点は、安く大量に手に入れられる事である。
その利点を失いかねないような措置を施すわけにはいかなかった。
なので、改良改修はどうしても限定的なものになっていく。
大切なのは、ちょっと手を加えるだけで……という事だ。
ちょっとと言える範囲を超えてしまうならば意味が無い。
予算がないし、時間も手間もかけてられない。
あくまで簡単にできる事が求められている。
「簡単に済ませて、簡単に死ぬような事になったらたまらないけどねえ」
改修される班の自動車を見てそんな事を口にする。
タクヤのところの部隊も少しずつ改修が為されていった。
前線に放り込まれる事はないだろうが、敵がいつ襲ってくるか分からない。
その可能性があるくらいには前線に近づいていく事になる。
それに備えての対策だった。
「けど、バギーやバイクにはねえ」
「さすがに無理ですよ」
森山の言葉に「そうだよなあ」とため息を漏らす。
軽快さが売りのバイクやバギーには、装甲を追加する余地がない。
そもそも、車体に強化をしても意味が無い。
乗ってる者を守る事が出来ないのだから。
こういった面では、バイクやバギーは不利だった。
「敵が出てこなければいいけど」
「そうなったらとにかく動き回るしかないですね」
そして、車を前面に出して、タクヤ達バギーなどに乗ってる者は、その後ろに隠れるしかない。
「戦闘のやり方とか動き方とか、もっと訓練しないとまずいかもな」
「いざという時に動けないといけないですからね」
問題なのは、そのために時間を捻出する事が難しい事だ。
今のタクヤ達はそれだけあちこち動き回っている。
「もう少し暇になってくれないかねえ」
いつも呟く願望を繰り返す。
そう願っても、仕事も敵も大人しくなってはくれなかった。
続きは明日の予定




