15話 準備というには大がかりな動き
その日、兵衛府に向けて数機の大型航空機が飛び立った。
飛距離を稼ぐ為、中にはほとんど何も搭載せずに。
途中、間にある大陸の都市を経由していく。
同時に、兵衛府に向けて特別便となる運搬船が出発していく。
一井物産が特別にしたためたその荷駄船は、他の様々な積み荷を断ってまで用意された。
荷物の運搬を求める様々な者達や団体の文句を受けながら。
兵衛府までの遠い道のり、行き来する船も限られている。
そのため、出荷する物資を持つ者達は少しでも多くの荷物を運ぶべく、様々な手段をとっていた。
そんな中で、船一つをまるまる使っての運送である。
周りが冷ややかな反応を示すのも無理はない。
だが、他を犠牲にしてでも一井物産は己の荷物を優先した。
それはこの時だけでなく、その後も何度か行われた。
己の抱える船舶会社を使っての事ではあるが、その分利益を失う事にもなる。
評判と同時にそれらを捨ててでも、彼等は自分らの望む物の運送につとめた。
兵衛府の空港。
本来民間のものであるそこに、ものものしい機体が着陸した。
中型の旅客機並の大きさがあるそれは、しかしそんな可愛いものではない。
軍用の輸送機の形をしながらも、中身はまるっきり別物である。
それは兵衛府の空港にある一井物産の格納庫へとおさめられていく。
本来なら航空輸送便を整備する場所に、それらは身を寄せるように入っていく。
かなり広いはずの格納庫は、たった数機のそれのせいでかなり狭くなってしまう。
そして、最低限の整備だけを済ませて暫く眠りに就く。
特殊な機体なので専門の整備士が必要なのだ。
それは後日荷物と共に船便で到着する事になっている。
本来の用途に向かっていくのはそれからになる。
それの到着に続くように船便で様々な物資が届けられてくる。
爆撃機用の部品に備品。
完成状態で届けられる爆弾。
整備の為の人員。
まだ試験段階を超えてない爆撃機の状態を確かめる研究員。
様々なものが港から一井物産の敷地に向かっていく。
それだけではない。
一井物産に関係各社の戦闘部隊。
これらの用いる物資。
戦闘用の兵器に車輌。
剣呑なそれらも一井物産の敷地に入っていく。
加えて、労働力として数多くの人員が海を渡ってきた。
それらは兵衛府の外に向かうと、作業用の機械を用いて開拓を開始していく。
兵衛府からはある程度距離を取った場所がすさまじい速度で切り開かれていく。
そして、整地された大地の上に様々な施設が作られていく。
人が住む宿舎に、車輌や機械を収める格納庫。
物資をおさめる倉庫。
仮設の域を出ないが、人が住み、仕事をする場所が出来上がっていく。
それは小さな町の姿になっていった。
突貫工事で作られていくそこは、一井物産の拠点としての機能を持ち始めていった。
様々なものが次々と到着する。
鉄筋、コンクリート、電線、水道管、ガス管。
ありとあらゆる物が山積みにされ、それでいてすぐにあちこちに持ち出されていく。
求められる最低限の機能を作り出す為に、人も物も大量に用いられていく。
そうして出来上がった所に、更に多くのものが訪れていく。
戦闘用に改造された軽飛行機にヘリコプター。
同じく戦闘用にされた車輌。
少数だが軍用の戦闘車両に戦闘機までもがやってくる。
軍に比べれば大人しいものだが、それは充分に戦闘集団と言えるものだった。
「何やろうってんだ?」
一井物産に集まる軍勢を見た誰もがそう思った。
これに対して一井物産は、増大する敵に対する備えと説明をしていった。
それにしても急激な増強であり、誰もが訝しんだ。
とはいっても、戦力の増強は誰もが望むところである。
脅威に直面する兵衛府では、それを歓迎しても非難するものは無かった。
それらの期待に応えるように一井物産の部隊は行動を開始していく。
とはいえ、動くのは航空部隊だけである。
数が多いとはいっても、軍に比べれば少数の地上部隊は戦闘に参加しない。
しても効果的な攻撃を加えられないからだ。
多いと言ってもそれは企業の抱える部隊としてみた場合である。
関連各社に賛同者を加えても兵衛府の陸軍には及ばない。
それらが前線に出て戦闘をしたとしても、出来る事は知れている。
それよりは、普段行ってる業務に加わった方が良い。
過剰労働を強いられてる現地の者達にとっては、この増員はありがたかった。
「けどなあ」
突如の増員にタクヤは首をかしげる。
「なんでまた急に?」
楽が出来るようになるのでありがたい。
だが、こうもいきなりだと、何が目的なのだろうと考えてしまう。
会社が何の理由も無く人を増加するとは考え難い。
「何が大きな仕事でもするんですかね」
森山の推測に「ありえるな」と呟いていく。
人を増やす一番の理由はそれであろう。
でなければ無闇に人を動かすわけがない。
「だとして、何をするつもりなんだか」
それが問題だった。
これだけ戦闘員を集めてるのだから、戦闘に関わる事だろうとは思う。
だが、集めて何をするのかが読めなかった。
地上部隊がどれだけ増えたとしても、前線の補強がせいぜいだ。
だが、企業の部隊が増えたところで、どれだけ意味があるのかとも思う。
装備の質や人員の訓練度合いで軍に劣るのだ。
そんなのが多少増えたところで、切迫してるであろう前線を支える事が出来るとは思えなかった。
「本当に何をするつもりなんだか」
これの答えを得るのは、もう少し後になる。
一部の者が出入りしている格納庫の中。
整備と調整が終わったそれらが、ついに出番を迎えようとしていた。
まだ実験段階、試験段階であるはずのそれらは、出撃の準備を済ませて滑走路へと向かっていく。
既に軽飛行機などの部隊は飛び立っている。
それらは最前線に向かい、今日もやってきてる敵への攻撃を実行していくだろう。
少数ながら一井物産が保有する戦闘機も、爆弾を抱えて出撃していく。
こちらは、前線の近くにある敵施設に向けてである。
再建どころか増加しているそれらを攻撃して機能を停止させるためだ。
順次飛び立っていくそれらに続き、運び込まれた巨大な機体が滑走路に到達する。
それらはエンジンを解放して滑走路を走っていく。
機体内部と翼に大量の爆弾をつり下げて。
まだ正式採用には至ってない、試作型の爆撃機。
それらが滑走路を走って次々に飛び立っていく。
一井物産が持ち込んだそれらは、戦闘機と同様に敵施設へと向かっていく。
目的は実戦における使用具合の確認。
それによる問題点の洗い出しと、実用性の評価。
その為だけに、無理して増産をして兵衛府に持ち込まれていた。
既に実用可能と言われているそれらを用いて、一井物産は行動を開始していく。
飛び立った爆撃機は、戦闘機の後を追うように敵地へと向かっていった。
続きは明後日に




