13話 徐々に前線に近づいていく事に危機感をおぼえつつ
「それで、前線の方はどうなってるの?」
バギーへの燃料補給をしながら、集積所にいる者に尋ねる。
この場所に勤務してる者は「さあねえ」と首をかしげる。
「色々忙しいみたいだけど、詳しい事はなあ」
「そんなもんか」
「そんなもんだよ。
こっちだって根掘り葉掘り聞いてるわけでもないし。
前線から来る連中だって、好んであれこれ話すのも少ないし」
「じゃあ、何がどうなってるのかも分からないと」
「敵の勢いが激しいとは聞くけど。
それ以上はな」
そう言って燃料の補充をしていた男は言葉を切った。
タクヤもそれ以上は尋ねない。
これ以上聞いても情報が得られるとは思えなかった。
タクヤに比べれば前線に近い所で仕事をしている。
前線に出向いてる者達との接点も多いだろう。
だが、正確な情報を握ってるというわけではない。
知らないものは知らないのだ。
(これで全部なんだろうな)
聞き出した情報が、目の前にいる者の知る全てであろう。
ならば、聞くだけ無駄というものである。
前線は更に逼迫してきてるようで、タクヤにも更に前線の方での勤務が打診されている。
実質的な命令であり、逆らう事は出来ない。
すぐにというわけではないだろうが、いずれは集積地から前線方面への護衛が仕事になるはずである。
ついにこうなってしまったか、という気持ちだった。
(関係ないと思ったんだけど)
前線における人材枯渇は大分深刻らしい。
使える人間は少しでも前線に放り込みたいのだろう。
タクヤにまでそれが及んできたというだけの話しだ。
それに、後輩も増えてきている。
比較的安全な場所での作業は、そういった者達に回していくのだろう。
となれば、先輩であるタクヤ達がする事は決まっている。
(前線か……)
即座に前線までの輸送などをさせられるわけではないだろう。
だが、敵の近くまで動く事になる。
危険もそれなりに上昇するだろう。
そんな時にはどうすればいいのかと考えてしまう。
(大丈夫なのか、俺達)
それが一番の不安だった。
「まあ、何とかなるでしょう」
森山はタクヤの班についてそう評価する。
「不安は確かにありますが、そんなもん誰であったってつきまといます。
その不安が大きくなるか小さくなるかだけですよ」
「でも、小さい方がいいでしょ」
「それはそうですけどね。
それでも、駄目な時は誰であっても駄目になりますから。
いけるなら、どんな奴でもやりきれますし」
最後にものを言うのは運である、という事になる。
能力がどれ程優れていても関係が無い。
死ぬ時は死ぬ。
生き残る時は生き残る。
どちらになるかは、その時になるまで分からない。
「俺だって、もう駄目だと思ったけど、こうして生きてるわけだし」
「それは森山さんが出来る人だったからじゃ?」
「だといいんですけどね。
でも、やっぱり運が良かったんだと思いますよ。
襲われたのは運が悪かったですけど」
それでも生き残れたのは運が良かったのだろう。
能力も高かったのだろう。
同じように襲われて、助からなかった者もいたというのだから。
「でも、あれはもう御免ですね。
病院に運び込まれるまでずっと痛かったんで」
致命傷は避ける事が出来たが、相当な大怪我であったという。
出血を止め、どうにか命を繋ぎ止めながら兵衛府に運び込まれた。
失った部位を細胞培養で復活させるまでは、絶える事のない苦痛に見舞われた。
「それでも、生きてるからいいんでしょうけど。
でも、またああいう目にあうかもしれないと思うと、もう前線は無理ですよ」
「そうだろうなあ……」
タクヤとて御免である。
想像するだけで震える。
それなのに、前に出ろと言われるのだ。
「たまらないな」
「まったくです」
二人してため息を吐いた。
だが、経験のある者をいつまでも閑職に放り込んでおくわけにもいかない。
秀でた能力はなくても、最低限の仕事が出来るなら、それなりの作業をやってもらわねばならない。
能力は無くてもタクヤ達には実績がある。
その実績は、彼等が既に素人ではない事、仕事を任せても問題は無いと証明している。
手際が悪くても、仕事を最後までやろうとする意志がある。
護衛としてモンスターを追い払う能力がある。
指示通りに動いて、少なくとも全体に支障を来すような動きをしないでいられる。
口下手であるかもしれないが、他の仲間と接する事が出来る。
それが出来るならば、より労力を必要とする仕事をしてもらわねばならない。
会社としては、そこそこ使えるようになった人間を遊ばせておくわけにはいかない。
何より、前線の厳しさが、仕事の出来る人間を求めてる。
「面倒だよな」
「まったくです」
前線の方に目を向けてぼやく。
集積所の外壁で阻まれてるが、見つめる方向に味方と敵の接触面がある。
「そのうち行く事になるんだよな」
「決まったなら仕方ないですね」
憂鬱な気分になりながら、この先の事を考える。
「出来れば、俺らが行く頃には、敵をがんがん倒していけるようになってればいいけど」
「期待はできませんね」
「だよな」
早急に事態が好転する事はない。
そうなるよう願いはするが、それがかなうのはもっと先の事になるだろう。
「そうなるまで生き残らないとな」
そんな話しをしてるうちに出発の時間がやってきた。
集積所から兵衛府に。
まだ暫くは走る事になる道をタクヤ達や走っていった。
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