12話 どこもかしこもギリギリで成り立っている
毎日続く物資輸送。
そして、これも毎日のように起こる敵の襲撃。
双方共に大量の物資を用いての戦闘が続いていく。
前線の地上部隊は常に消費する弾薬を求めていた。
それらはひっきりなしに到着する輸送船によって捕球される。
しかし、それでも足りず、最近は原料の状態で運び混み、兵衛府の工場で形にする事が多くなっていた。
それでも必要な量の確保が難しくなっている。
敵が多すぎるのだ。
「本当に暇がないな」
運び込む物資を積み込んだトラックを見て、タクヤは愚痴をこぼす。
日に何度も輸送し、その都度随伴をせねばならない。
その為の手間がとてつもなく大きい。
戦闘よりも移動の方での消耗が強いくらいだ。
その戦闘も、時々襲ってくるモンスターを倒すくらいだから大したものではない。
それよりも往復回数の方が問題だった。
「今日は何回やるんだか」
「まあ、2往復は確実でしょう。
それ以上もありえますけど」
「きっついなあ……」
片道100キロ以上の移動を数回もこなせば相当な疲労になる。
この苦行をどうにか出来ないものかと思ってしまう。
「でも、これだけ運び込んでも全然足りないっていいますからね」
「まだ増える可能性があるって事か」
輸送回数が増えるのか、運送車両が増えるのか。
どちらにしろ、今のままというわけにはいかないだろう。
「また仕事が増える……」
これ以上の労働は勘弁してもらいたかった。
そうなってる原因は、単純に敵の攻勢が激しくなってるからだ。
襲ってくる回数も、一回でやってくる数も増えている。
それらを撃退するために、弾薬などの消耗が激しくなっている。
前線にはりつけねばならない人員も増大する。
前線に運び込まねばならない物資が増大するのも当然だった。
そうなってる原因は、拡大を続ける敵の施設である。
拡大を続けるこれらが、敵の機械を続々と生産してる。
倒しても倒しても次々に生産されて補充される。
これをどうにかしなくては、敵の攻勢がおさまる事は無い。
だったら施設を破壊すれば良い……のだが、もちろん簡単にはいかない。
敵の施設に向かうには、間に展開している敵を撃破しなくてはならない。
それらは地表を埋め尽くしてるのではないかと思えるほどに多い。
突破して進むには、それは重厚すぎた。
どれ程いるのか分からぬほど存在する敵は、もはや壁と言っても良い。
それを超える事が出来るのは航空機だけである。
このため、戦闘機の仕事に敵基地の破壊がある。
幸いにも敵の攻撃は高々度までは届かない。
そこから敵地に侵攻し、施設を破壊していく。
どちらかと言えば、戦闘機の主な仕事はこういった施設の破壊だった。
敵地上部隊の撃破よりも、こちらの方で出撃してる事が多いくらいだ。
それでも敵の生産速度はそれほど減少してるというわけでもない。
壊したそばから施設を作り直してるからだ。
作り直すといってもそれほど簡単に施設を再構築できるわけではない。
やはり時間がかかってしまう。
しかし、建造の為の作業をこなす機械も多く、それらが人海戦術で施設を再建してしまう。
再生する以上の速度で壊せれば良いのだが、そうもいかない。
戦闘機が飛べる範囲だけに生産施設がわるわけではない。
航続距離の限界の外にある場所にも敵の施設はある。
そこまで飛ぶ事が出来る戦闘機はない。
空中給油を用いれば少しは足が伸びるが、それとて限度がある。
どうしても長距離を飛べる手段が必要になる。
残念ながら、長距離攻撃が出来る爆撃機は開発中である。
試験飛行が出来る状態にはなったが、実戦配備がいつになるかは分からない。
かなり前倒しで進んでいるのだが、敵の勢力増大の速度もかなりのものである。
敵の増殖や拡大が先か、攻撃手段の入手が先か。
どちらが先になるかで戦況が決まる。
こういった事も、戦争の一形態と言えるのかもしれなかった。
それらが出来上がるまでは、戦闘機が攻撃を続けるしかない。
戦果を増加させるために、増援が次々に兵衛府に訪れる。
それらを収容する格納庫と、効率良く運用する為の滑走路も増設される。
敵に負けず劣らず、人類の基地も拡大の一途を辿っていた。
「俺達も大変だけど、あっちもきついだろうな」
出発した輸送隊に並んで走りながら空を見上げる。
轟音をあげて飛びだつ戦闘機の姿が少しだけ見えた。
「今日も何回飛ぶんだか」
「仕事とはいえご苦労な事ですな」
森山の同情に満ちた声が通信機を通して耳に届く。
「訓練もそこそこにこっちに回されるって聞くけど。
それであれだけ仕事をさせられるんだから、たまんないな」
「どこも人手不足ですからね」
実際、戦闘機の操縦士の訓練期間は短い。
正規の操縦士に比べればであるが、それでも必要最低限の課程で戦場に送り込まれるという。
さほど高度な操縦技術が必要になるわけでもないので、それで構わないというのもあるのだろう。
軍も設立されて間もないから、まともに動ける人間が少ないというのもある。
そういった事情から、訓練もそこそこに実践投入されるのもやむをえないのかもしれない。
「実戦が訓練か」
そうでもしないとやってられないのだろうが、何ともやるせない話しである。
「どうにかならないもんなのかな」
「どうにもならないでしょうな。
戦争が終わらない限りは」
「終わればいいけど」
「こっちの勝ちで終わるよう祈りましょう」
それもそうだなと思いつつ、それでもちょっとした反論が浮かんでくる。
いったい誰に祈ればいいのだと。
今日はここまで。
続きは明後日の予定




