10話 輸送の現状 1
「今日も前線に配達だ」
いつものように仕事を班員に告げていく。
「ただ、敵がかなり押し寄せてるらしい。
一度爆撃して相手を減らしてからの移動になる」
「かなり厳しいですね」
森山が考えながら呟く。
「空爆してからとなると、時間を合わせるのが難しいですよ」
「だろうね」
それはタクヤも気がかりなところだった。
爆撃をしてからということは、それだけ敵があふれてるのだろう。
それらを片付けてから物資を運ぶのだろうが、それでも戦闘の直後に突入する事になる。
爆撃が始まる前にはある程度まで接近しておかねばならない。
そして、攻撃が終わって敵が散ったあたりで目的地に到着せねばならない。
「上手く連絡を取り合ってくれてればいいんだけど」
互いの連携が上手くとれなければ、全てが無意味になってしまう。
「そのあたりは、司令部が上手くやってくれると信じよう」
「やってくれますかね?」
「出来ると信じるしかない」
信じようと思い込まねばならない程度の信頼度という事でもある。
実際、各部隊の場所や移動速度などを逐次把握していくのは難しい。
指示が大雑把になるのはやむをえない。
各車両の位置などを現在地情報を共有する事で可能ではある。
それでも、全てを円滑に動かす事はなかなか出来る事ではない。
司令部に全てを任せるというのも酷な事ではある。
なのだが、全体を見渡せるのが司令部しかないのだから、その指示に従うしかない。
下っ端の辛いところである。
「なんとかなるさ」
そう言ってなだめていく。
仲間を、何より自分自身を。
不安は日に日に大きくなる。
護衛する範囲が拡大し、前線の近くまで移動するようになっている。
そうそう遭遇するものではないが、敵との接触の可能性が高まっていく。
それよりも怖いのは、移動距離の増大だった。
かかる時間も増加し、その分作業に従事せねばならなくなる。
これによって体力の消耗が増えてしまう。
車輌に乗って移動するにしても、それなりに体力を使う。
体をさほど動かしてるわけではないが、車を正確に移動させるとなると、それなりに神経を使う。
それなりの速度を出してるものを、動かすのだ。
少しのミスが大きな事故になる。
まして、一応はならされてるとはいえ、基本的には砂利道でしかない所を進んでいく。
走ってる間は周囲に気をつけておかねばならない。
その疲労が意外と大きい。
体勢をある程度固定してしまうので、体が強ばってしまうからだ。
そして、敵の襲撃の可能性があるというのが常に緊張を強いてくる。
勤務する場所を前線に押し上げられた事で、こういった負担がかかってきていた。
加えて、今回のように戦闘との兼ね合いもある。
脅威となる敵を片付けてからでないと近づけない場合もある。
タクヤ達はそこまで接近する事はない。
その手前の集積所までがせいぜいである。
だが、前線近くともなると、突破してきた敵がいる可能性がある。
それらを倒し、安全が確認されてからでないと近寄れない。
敵が押し寄せてきた場合には、手前で停止する事も度々だった。
それでも、敵を排除してから接近するならまだ良い。
場合によっては、敵の姿があっても荷物を運び込まねばならない事もある。
それくらい時間がなかったり、物資の残りが少ない場合もある。
そういった場合の護衛の負担は際限なく大きくなる。
敵を見つけたら即座に撃破せねばならなくなる。
輸送物資の護衛というよりは、戦闘部隊のように振る舞う事が求められてしまう。
無茶苦茶な話しだが、そういった事も求められてしまっていた。
ありがたい事に、今の所そういった物騒な事をせねばならない状況には陥ってない。
物資の搬入は敵がいない時は、排除した後に行えている。
より前線に近いところまで出向く者達はそうでもないだろうが、タクヤ達はそこまで求められてはいない。
襲ってくる敵もモンスターだけで済んでいる。
ただ、モンスターの数が前線に近づくほど減っている。
モンスターが生息できないほど苛烈な戦闘が行われてるからだという。
それだけは心底ありがたいと思えた。
「お……!」
トラックと併走していくと、上空から特徴的な音が聞こえてきた。
姿は見えないが、戦闘機が爆撃のために飛んでいるようだった。
肉眼では確認出来ないくらいの上空にいるはずである。
「上手くやってくれよ……」
自分達に被害が及ばないよう願う。
押し寄せる敵をしっかり粉砕してくれと。
仕事であるから敵が出てくれば戦うが、好んで戦闘をしたいとは思わない。
なるべく安全なところで、安全に作業を進めたかった。
そう思いながら先へと進んで行く。
そんタクヤの遙か上を20機の戦闘機が飛んでいく。
いずれも翼に爆弾を抱え、目標地点へと向かっていた。
目標は、地上を進む敵機械。
いつものように大量に発生してるという。
地上部隊だけでは手に余るという事で、上空からの爆撃支援となった。
ただ、20機程度の爆撃では効果が薄い。
爆発の衝撃はかなりのもので、大量の敵を一度に粉砕する事は出来る。
なのだが、それだけで撃退出来る程簡単なものではない。
一度に大量に押し寄せる敵は、この程度のでは簡単に蹴散らす事は出来ない。
それでも、押し寄せる軍勢に穴を開ける事は出来る。
その穴が、前線に少しだけ余裕を与える。
航空部隊に求められる役目はそれだった。
完全に敵を粉砕する事では無い。
それらは戦場展開する部隊全体で行う事になる。
空かの爆撃は、その為の一部を担うのみ。
その役目をこなすために、戦闘機は敵に向かっていく。
見えてきた敵の軍勢に向かって高度を下げていく。
最初に突入する部隊が、拡がって適切な間隔をとっていく。
爆撃のための照準をそれぞれあわせながら。
その後、4機編成の1小隊が爆弾を投下していった。
風切り音をあげながら地上に落下した爆弾が、爆風を上げていく。
敵がそれに巻き込まれていく。
それが5回続く。
これにより敵部隊の中に大きな穴があいた。
更に戦闘機は再度戦場に突入し、機銃を撃ち込んでいく。
連射される20ミリ砲弾が、密集する敵を次々に粉砕していった。
爆弾ほど広範囲に影響はしないが、射線上にいた敵が次々に吹き飛んでいく。
燃料と弾丸がゆるす限り、戦闘機はそれを繰り返していった。
20:00に続きを




