9話 変わっていく現状の中で、作業量が増大する
「なーんか、荷物が多くない?」
班員の誰かが並んでるトラックの列を見て感想を漏らす。
その通りであった。
最近はやたらと荷物が多い。
港に入ってくる貨物船も増えてるという。
運送便も増え、荷物運びの往復回数も増えている。
そして、タクヤ達の行動範囲も。
「前より遠くまで行くようになったし」
「最近、残業が多いですよ」
「それだけ戦闘が激しくなってるんだろうな」
その事への不安が高まってもいた。
「どうなるんですかね」
「分からん」
戦況についての詳しい情報など知るよしもない。
ただ、敵をどうにか食い止めてるよう願うのみである。
かつての大本営発表の反省からか、政府(ではなく、自治体だが)発表に嘘はなかった。
戦況の不利も伝え、状況がどうなってるかを出来るだけ正確に伝えようとはしている。
しかし、だからといって軍事的な行動の全てを公表する事も出来ない。
何がどこに伝わりどうのような結果を招くか分からないからだ。
敵への情報漏洩……これについては何とも言えない。
大穴から飛び出して来た者達との意思疎通はいまだに出来ていない。
そもそもこちらの言葉が分かるのかどうかも不明である。
人類も、機械しか見えない相手の考えや意志などを感知出来ないでいる。
機械の間で信号がとりかわされてるかもしれないと考えられてはいる。
だが、無線にしろ他の何らかの手段にしろ、意思の疎通らしきものや指令や指示も見受けられない。
してるのかもしれないが、探知出来なければ意味が無い。
なので、敵方にこちらの情報が伝わる可能性については何も分かってなかった。
もしかしたら、こちらの声などは伝わってないかもしれない。
あるいは、分かっていて無視してるのかもしれない。
このあたりは謎である。
だとしても、警戒するにこした事は無い。
それより大きな問題なのが、同じ人類への情報漏れだった。
日本国内ですら、新地道における戦争に反対してる者達がいる。
だいたいが平和を盾にした反戦を求めていた。
だが、戦うつもりがこちらになくても、相手がそう思ってもいなさそうなのだからどうしようもない。
そもそもとして、意思の疎通すらはかろうとせずに襲いかかってくる連中である。
反戦などという選択肢は皆無といって良いだろう。
そんな連中を前にして「戦いをやめろ」というのは自殺行為でしかない。
そういった者達に今の状況が伝われば、何がどうなるか分からない。
良い方向に進めば良いが、そうならない可能性もある。
更に他国の動きもある。
この争乱を聞きつけた連中が、何らかの介入をはかってくる可能性はある。
それが日本への増援であっても、戦闘を非難する事によるものであってもだ。
日本としてはそれらへの対応を求められ、余計な手間が増える事になる。
異世界という新天地への介入、そこで得られる利益を求めてる国は数多い。
そんな連中に餌を提供するような事は出来なかった。
迂闊に現状の全てを伝えるわけにはいかない理由は、おおよそこんなものだった。
敵は前だけではない。
後ろでもない。
ありとあらゆる所にいる。
そう思って行動してないと足下を掬われる。
後ろから刺される。
騙され、貶められ、全てを奪われる。
そうならない為には、自分で何とかするしかなかった。
他人の手を借りるにも、対価を少しでも用意しておかねばならない。
それが出来なければ、いずれ大きな代償を支払う事になる。
ただ、こういったもののしわ寄せはどんな形にしろ様々な所に波及する。
タクヤ達も例外ではない。
他からの増援を期待出来ないから、今いる要員だけで事を進めねばならない。
増員を計る事も出来ない状況では、一人一人の負担が増える。
タクヤ達が忙しいのもむべなるかな、である。
「ボーナス、はずんでくれますかね」
「最近、会社もケチだしな」
「残業代も出ればいいけど」
そんなぼやき声が上がり続ける。
タクヤもそれは同じである。
「役職手当を増やしてくれよ」
いっそ、人事課に嘆願でも出そうかと思ってしまう。
最近、それが本気になりつつあった。
続きは明後日の予定




