第12話 惑わしピクシー
モーザとならんで小道を歩く。気分はちょっとしたピクニック。
両脇に広がる原っぱには、ぽつりぽつりと何頭かの牛が見える。白黒のホルスタインじゃなく、こげ茶色で角がなく、耳は丸い。ひょっとして、朝のミルクはこの子たちのかな?
のんびり草を食べる牛をあとに歩きつづける。右手の原っぱの向こうには森が広がる。ねじくれた大きな木がうっそうと茂っている。
「モーザは森の中でも遊ぶの?」
「うーん……あんまり行かないかも」
ここは領地じゃないのかな?
探検するのはまだ早いかもしれない。モーザとはぐれたら帰れなくなるかもしれないし、森には危険な妖精の話が多い。
野の花が咲き乱れる花畑を見つけたので、すこし早めのお昼ごはんにする。夏も終わってもうそろそろ涼しくなってくる時期なのに、春の花も混じって咲いてる気がする。日本とは違うだろうから、わたしのカン違いなのかもしれないけれど。
お弁当包みを開き、パンとゆで卵をモーザとふたりで分ける。飲みものは水筒にくんできた泉の水。色とりどりの花をながめながら食べていると、草花のあいだに小さな影が見えた。
緑の服に赤の帽子。枯葉色のマントを羽織った姿も。手のひらサイズの小さな妖精、ピクシーの群れだ。ちょうちょやトンボの羽根をはやした子もいる。本で見たコティングリー妖精事件の写真みたい。
でも、うかつにピクシーだとか妖精さんとか呼んじゃいけない。妖精を直接名前で呼ぶのは失礼なこと。バンシーやシルキーはわたしのお城に憑いているから、大目に見てくれているだけだ。
「こんにちは良い人たち。いいお天気ですね」
「こんにちは娘さん。あなたが新しいご領主?」
うなづくと、ピクシーたちは口々にあいさつを始め、わたしの手にキノコやドングリを落としていった。なにこれ貢ぎもの?
バンシーに、妖精からもらったものは口にしてはいけないと、釘を刺されてたけど、そもそも食べられそうにない。
「ありがとうね」
お礼をいってポケットにしまう。代わりに食べかけのパンをはんぶん残しておく。
そろそろ見回りを続けようと、立ち上がりスカートのおしりをはたいていると、モーザがふいっとわたしの肩に手をのばした。
「メグ、ついて来ようとしるよ?」
モーザがつまんでいるのは、うっすら透けた羽根のあるピクシー。この子たちは、人にとり憑いて道に迷わせる。悪気はないのかもしれないけれど、おなじ所をぐるぐる回っていたり、気が付いたら深い森の中だったり。
「また今度ね」
見付かっちゃったか、という顔で花畑に帰るピクシーに手をふる。あまり気が進まないから用意しなかったけど、お城の外を歩くときは、蹄鉄だとかトネリコで作った十字架だとか、妖精除けのお守りを隠し持っていたほうがいいかもしれない。




