新たな生活
ルギトの言葉に反応して、キルグニルからオレンジ色の光が発生する。
その光に包まれたモリ一族はあたたかな温もりを感じた。安心感が生まれ心が落ち着く。
やがて光は収まった。
「うん、これで大丈夫」
モリ一族の皆は不思議そうに自分の体を見るが、外見では変化は皆無だ。本当に効いたのか疑問には思わなかった。皆、自分たちの体から何か憑きものが落ちた感覚を感じていた。
「これで本当に・・・・・・」
「あぁ呪いを気にせず、自由に街で暮らせるよ」
皆嬉しそうにしていた。山奥での生活を続けていくのはやはり辛いものがあったのだ。
「さて、これで君たちは自由だな。アイ―ヌ。悪いけど彼らの住む場所の手配をお願いしたい」
「分かったわ。彼らの生活を見れば、農地がある敷地を与えれば、暮らしていくのに問題はないはずね」
「・・・・・・アイ―ヌ殿。ルギト殿。礼を言う。本当にありがとう」
ハルノは深々と頭を下げる。彼女の姿を見た他の者も、慌てて皆頭を下げた。
「今まで使命をずっと守ってくれてたんだ。これくらい協力させて」
「サイレン国には、荒れた農地があるから、そこを管理してくれるのなら大歓迎よ」
「我らは今日の日の感謝を必ず忘れないぞ。」
この日、ルギトとアイ―ヌは帰宅した。詳しい移住についてはまた後日という事になった。
ルギトたちが家に着くと、アイ―ヌはどうやらもう帰らなくてはいけない時間のようであった。
迎えに来た護衛と共に王城に帰っていく。
ルギトはその後、適当なご飯をつくり、風呂を沸かせて入る。
時間が過ぎ、ルギトは就寝する。
眠るルギトの意識の中に、別の何かが入ってくる。
「ルギト、聞こえるか?」
聞き覚えのない声がした。姿形はない。ただの声だけだ。
「聞こえるけど・・・・・・」
「誰だこの声はと思っているだろう?」
「うん。まぁ」
「まったく、何百年ぶりに再会したというのに・・・・・・その反応とは」
「・・・・・・もしかして、キルグニルなのか?」
恐る恐る尋ねたルギトの問いに、声は嬉しそうに答えた。
「そうだ! やっと分かったか」
キルグニルからの声を聞いたのはこれが初めてだ。三百年前にも聞いたことがない。
「おっと、もう日が昇り始めたか。話の続きはルギトが起きてからにしよう!」
そこで声は途切れ、視界が真っ白になる。
息苦しさを覚え、ルギトは重い瞼を開けた。
ルギトの体の上には、一人の女性が跨がっていた。大人びた外見に、長い黒髪。目を見張る美人が、ルギトの上にいたのだ。
「おはよう!」
「・・・・・・おはよう」
「目覚めはどうだ?」
「ううん、最高だよー」
ルギトは適当に答えた。それに女性はムッとする。
「今適当に答えただろう!」
ぼすぼすと軽くルギトを小突く。
「痛い痛い・・・・・・えっと、初めましてだよね?」
「一応な。夢でも私の声を聞いただろう」
「あぁ、じゃあ君がキルグニルなんだね」
「その名前も良いが、ちと長いな・・・・・・キルと呼んでくれ!」
「分かったよ。それじゃあキル。重いからどいてほしいな」
「お、重くはないであろう!」
不満そうに頬を膨らませながら、しぶしぶキルはルギトの上から降りる。
そこでちょうど、アイーヌが「ルギトー!」と家にやって来た。
いつもの調子で、寝室のドアを開け、ルギトの胸に飛び込むアイーヌ。
しかし、そこからしばらくして、キルの存在に気がつく。
「えっ!・・・・・・あなた誰?」
恥ずかしくなったのか、アイーヌはばっと、ルギトから離れる。
「あぁ、止めなくていい。私を気にせず続きをどうぞ」
二人だけだと思い、完全に油断していたアイーヌは顔を真っ赤にする。見かねたルギトは助け船を出すことにした。
「この人については後で話すよ。ところで今日来たってことは、モリ一族の移住手続きが無事に終わったのかな?」
「そうね。手続きは終わったわ。あとは彼らが移動すれば、すべて終わりよ」
「たぶん、彼らも移住の準備は整えているはずだし、今日、移住の完了をさせちゃうか」
そう言い、ルギトは他二人を連れて、一族の集落まで飛んだ。