ルギトの武器
「何者だ?」
アイ―ヌの問いに答える者は誰もいない。ただ明確な敵意を含んだ視線を送っている。
じりじりと詰め寄られ、そして集団は二人に向けて武器を斬りつけてきた。
ルギトはアイ―ヌを庇いながら、攻撃を躱していく。
しかし連携が取れた攻撃に、たまらずその場から瞬間移動する。
二人の姿が消えた事に、驚く敵の集団だが、二人の姿を見つけると、再び武器を構えた。
「戦う気満々なんだな。どうしたものか」
「ルギト、あなた何かしたの?」
「いいやー何もしてないよ」
勝手に敷居に入っただけで、武器を振るう程怒ったということなのだろうか。
と、そこで集団の中から一人の長身の男が前に出る。
「何の用でここに来た?」
「ちょっとある物を取りに来たんだ」
ルギトの言葉に男は、さらに警戒する。
「それを聞いて黙って帰す訳にはいかん。ここで死ね」
「・・・・・・アイ―ヌ。下がってて」
アイ―ヌはルギトの背後に下がる。
相手からは本気の殺意を感じた。言葉通り、このままルギトを無視する事はないようだ。
このまま素直に帰ろうかと、考えたルギトだが、そこに高い少女の声が聞こえた。
「話だけでも聞こうではないか」
奥から着物を着た女の子が、集団をかき分けて姿を現す。
「・・・・・・あなたがそう仰るのならば・・・・・・しかし本当に良いのですか?」
「構わん。そこの者。私の後に付いてまいれ」
少女はくるりと反転し、歩き出す。
ルギトもアイ―ヌを連れ、集団の隣を通って彼女の後を追う。
やがて着いた一軒の家の前で、少女は立ち止まる。
「ここだ。入るが良い」
家の中に入り玄関から上がると、座敷が広がり中央には囲炉裏があった。
促されるまま、ルギトとアイ―ヌは座り、囲炉裏を挟んだ対面に少女が座る。
「まずは自己紹介からか。私の名は、ハルノという。そなたらは? といっても、あなたが王女殿だとは知っているがな」
「その通り、私の名前は、アイ―ヌ・ハンよ」
「俺の名前は、キトーだ。よろしく」
「ふむ、キトー殿か・・・・・・さて自己紹介も終えたところで、そなたらの用事とは一体何だ?」
「ここの周辺にある武器を取りに来た」
「武器か。どうしてこの周辺にあると思ったのだ?」
「気配を感じたんだ。けど正確な場所までは分からなくてさ」
「なるほどな・・・・・・」
「自分で言っといてなんだけど、信じるんだ」
ルギトは少し驚いた表情をする。
「嘘はついていないだろう? まぁ違うとしても、私がそう感じるのだから、良いのだ」
中々面白い感性の人のようだなと、ルギトは思う。
「俺の用事は話したんだけど、どうかな?」
「ふーむ・・・・・・そう簡単にいくものではないのだよ。あれを手にすればほとんどの者が正気を失う。お前さんもそうなるだろう。そうするとその後の処理に手間取る」
「それじゃあ俺はどうすれば良い?」
「気力を見せてほしい。あれを持つに相応しいと私が判断したら、場所を教える」
「・・・・・・分かった。ちょっと本気だす・・・・・アイ―ヌは少し離れた方が良いよ」
アイ―ヌはルギトの隣から、家の隅まで移動する。それを確認すると、ルギトは自らを縛る力を解放した。
ルギトの中から発せられる気力の一端は、圧となり家を押しつぶす勢いで溢れ出ていた。みしみしと家が悲鳴を上げていた。
たまらず、ハルノが声を上げる。
「も、もう大丈夫だ! 少し抑えてくれ」
「あ、うん。了解」
意識を集中させ、今度は気力を抑えた。
「こ、これ程とは・・・・・・恐れ入った。他人の気力を感じて恐怖を覚えたのは初めてだ」
ハルノは冷や汗をかいていた。こんな気力の大きな人間がいたことに驚きだ。
「それでどうかな。俺は合格?」
「む、無論だ。少し待っておれ」
そう言い、ハルノは奥の部屋に入っていく。
「ル、ルギト。私、腰抜かしそうだったよ。それにルギトは武器を取りに来たの?」
アイ―ヌはふらふらとルギトの近くまで戻ってきた。
「そう。アイ―ヌの守護者としてこれから必要になるかなって思って」
「私のために・・・・・・」
アイ―ヌは嬉しそうに笑みを浮かべていた。
そうこうしている内に、ハルノが戻る。彼女は着物から動きやすそうな格好に着替えていた。
「では行こう。案内する」
外にいた者達に、軽く説明を加えた後、ハルノは集落近くにある一つの山を指さす。
「我らはあそこの山に向かう。名を風絶山といってな。名前の通り、風が吹かない山だ」
風絶山はそこまで標高は高くはなかったが、異様な存在感を出していた。
ルギトとアイ―ヌは、ハルノの後を追い、山を上る。
「本来なら、こうして人を案内する事などしないのだぞ。今回は特別だ」
「それは、手間をかけさせて、すまないな」
「それじゃあ、別に案内はいらないんじゃない?」
アイ―ヌは、ここが自国ではないので、砕けた口調になっていた。
「そうもいかん。この山は複雑なのだ。迷子になりたくはないだろう?」
「う、それは確かに」
風絶山は、むき出しの地面が続いていた。草木などはあまり生えていない。
「少し不気味ね」
アイ―ヌは不安そうに呟く。
「お主らが求めている物の方がよっぽど不気味だと思うがな」
「そ、そうなの?」
「うーん、俺はそう思わないけど、普通の人はそう思うのかな」
「キトー殿にとってはそうなのであろうな」
ハルノは若干呆れていた。
そして三人は山頂付近まで登ってきていた。
そこはより一層、不気味なオーラが漂っている。
「見えてきたぞ」
山頂には盛り上がった岩があった。周りには霧のようなもので覆われ、ぼやけている。
「ここがそうか・・・・・・」
「少し待て。結界を解く」
ハルノは言葉を念じた。それを言い終えると、霧が晴れて視界がクリアになる。
「さぁその岩に手を置いて。あなたが認められば求めている物は姿を現すだろう。違かったならばキトー殿の心は奪われるだろう」
「もしそうなったら?」
「私が責任を持って、あなたを倒す」
「それは安心だ・・・・・・というか今更なんだが、よく俺がここに来るのを許可したね」
「最初、キトー殿が気配を感じたと言ったな。でもそれは普通の人間には無理なのだ。あれがお主を呼んでいる。そう思ったのだ。それにあの気力の大きさなら大丈夫だとさらに確信した」
「俺があの武器を悪用しようとしているとは考えなかった?」
「我らの使命は、あの武器を使うに値する人物を見定める事だ。まぁ、だがキトー殿は周りの人間に危害を及ぼすような人ではないだろう」
「その心は?」
「勘だ」
またか、とルギトは笑う。
「私の勘は良く当たるのだよ」
「今回も正解だな。俺はむやみに人を傷つける事はしないから」
ルギトは岩に近づいていく。
「ただ私用ではあるかな」
岩に手を触れるルギト。すると地響きが起こった。
「アイ―ヌを守るため、お前をまた頼らせてもらう」
岩が砕け、空中を漂う一振りの剣が現れた。ルギトがその剣を手に取ると、地響きは収まる。
「これからもよろしくな」
ルギトはギュッと強く剣を握りしめた。