与えられた任務
「どうやら、力量は問題ないみたいだ」
ロガスト王が、そこで初めて口を開いた。
アイ―ヌが連れてきた男の力が守護者となり得るものだと、ロガスト王は、初めに見た瞬間から感覚として、何となく分かっていた。
しかし、実際にこうして見てみると、想像以上だ。
特に最後の動きは、目で追うこともできなかった。
「その力、アイ―ヌの守護者として存分に振るってくれる事を期待している」
「こ、国王様! 本気ですか? ただの平民を守護者にするなど・・・・・・」
「守護者は貴族のみという規則はない。ただ求めるものは実力だ」
有無を言わさない王の言葉に、貴族たちは皆黙る。腕に覚えのある者たちならば、誰しもアイ―ヌ王女の守護者の役職を狙っていた。それを誰かも分からない男に奪われたのだ。納得できないのが総意だ。
そんななかでも、アルマ公爵は、不満と敵意に満ちた目で、ルギトを見ていた。
(カルエ公爵はどうやら駄目だったようだが、俺ならば、あの男にも勝つことができる。なのに、どうして王は俺を認めない!・・・・・・俺こそが、守護者に相応しいというのに)
そんな胸中とは裏腹に、王や王女の意見が、ルギトが守護者になるという方向に固まっていた。王や王女に逆らってまで、自分の意思を主張する者は、この場にいない。
ロガスト王はもとより、自分の娘の人を見る目を信用している。そんな娘が珍しく懐いている男なのだ。無下にできない。
しかしそれよりも、ロガスト王は、長年の戦士としての勘か、王としての勘か分からないが、キトーという男を守護者にしても問題ないと直感していた。
人と会って、こんなに自信の内側がざわつく感覚に陥ったのは初めてだ。
キトーが守護者となるのを決めるのに、時間はかからなかった。
役職としては定まった。あとは実績のみ。
ロガスト王はすでに、ルギトに与える任務について考えていた。それを充分に果たしてこそ、皆から認められる。
ロガスト王は、ちょうど良い任務があることを思いついた。
「あとは、実践を得てから、正式にキトーをアイ―ヌの守護者とする。実践の任務については、また後日連絡する。以上。この場は解散だ」
王の言葉に、他の者は渋々従うしかなかった。
皆が退出していく。ルギトもその流れに従おうとすると、ロガスト王がルギトの近くまで寄ってきた。
「娘を頼むぞ」
王の願いは、切実なものに感じた。
「・・・・・・分かりました」
ルギトは力強く頷く。
それに満足したのか、ロガスト王は軽く微笑み、退出していく。
王の背を見送るルギトの元に、たたっ、とアイ―ヌが走ってきた。
「やったねルギト!」
「うん、そうだね。まだ完全ではないけど、これで第一歩前進かな」
実践内容が気になるところだけど、今はアイ―ヌの喜びを受け入れることにしよう。
ルギトはアイ―ヌの頭を撫でる。
いつもなら、子供扱いしないでと言われるが、今はそれも気にならない程、嬉しそうにしていた。
(こんなにも喜んでくれるのか・・・・・・なら、俺も頑張らないとな)
任務の連絡はすぐに来た。
内容は、政務の一環として他国に出向くアイ―ヌの護衛だ。
国同士の表立った争いはないが、それでも安全ではない。他国の王女、それも大予言者として名が知れ渡っているアイ―ヌが訪れれば、何かが起こっても不思議ではない。
その護衛ともなれば、責任は重大だ。
訪れる国の名前は、デサイト共和国。
アイ―ヌはその国について、予知を見た。無視できないほどの、不穏な気配を感じたアイ―ヌは、父であるロガスト王に、視察させてほしいと願い出た。
表向きは、友好の証としての訪問だが、これが真の理由である。
デサイト共和国への訪問を三日後に控えた日、ルギトは家で出かける準備を整えていた。
とそこで、玄関の扉が勢い良く開いた。
「ルギトーいるー?」
「はいはい、ここにいるよー」
アイ―ヌは、ルギトを見つけるとその胸に抱きついた。そして甘えるように顔をすりすりする。
「他の人に見られてたらどうするの?」
「大丈夫。ここまで一緒に来た護衛の人達なら、もう帰したし。ここら辺に住宅なんてほとんど無いでしょう」
アイ―ヌ本人が良いと言っているのなら平気か、とルギトは納得する。
ルギトがカルエ公爵と戦った日以降、アイ―ヌはルギトと二人の時は、こうやって甘えてくるようになった。
心を開いてくれた証拠なのだろうと考えると、嬉しくなる。
自分の前だけだ少しでも、彼女の心の重荷が取り払えているのなら安心なのだが。
「それより、どこか行くの?」
「あ、うん。ちょっとこれから必要になりそうなものを取りに行こうかなって」
「ふーん、私も行って良い?」
「うーん、まぁ大丈夫かな・・・・・・」
「それじゃあ行きましょう!」
アイ―ヌはルギトの手を引き、外に出る。
「・・・・・・元気だねー。だけどちょってストップ。目的地はだいぶ遠い場所みたいだから、力使うよ」
ルギトはアイ―ヌを止めると、瞬間移動を発動させた。
視界が開けると、視線の先に、少しばかりの家々が立ち並ぶ土地に着いていた。
「ここは?」
ルギトに聞くアイ―ヌだが、そのルギトは困ったような表情を浮かべていた。
「うーん、俺もよく分かんないんだよね」
「な、何それ!」
「ごめんね。俺は、ある物の存在を感知して来ただけなんだ」
二人は、家々の傍まで近寄り、足を踏み入れた瞬間、武装した集団に取り囲まれた。