奇跡の力
セブン大陸で暮らす人間は、ある1つの特別で不思議な力を持って生まれてくる。
この力を人々は奇跡の力と呼んだ。
奇跡の力を使うのに必要なのは、人が持つ気力の力。
気力の大きさは個々人による異なるが、この気力の大きさによって奇跡の力の威力が左右される。
「私の奇跡の力は夢の中で予知できる能力なのよ。あなたと同じで少し特殊な力」
「それで分かったのか。しかし珍しいね。俺の時代でもそんな力持っている人はいなかった」
「珍しがられるだけなら、まだ良いんだけどね・・・・・・」
「・・・・・・そう。色々あるんだな」
「まぁそうね」
自分の身に起きた事情は大体理解できたが、あまり、ここに長居するのは良くないだろう。
「取りあえず、今日はもう夜遅いから帰るよ」
「え、あ、そうね・・・・・・で、でも、もし良かったら、これからも会ってくれる?」
アイ―ヌは不安そうにルギトを見た。
「もちろん。また明日も来るよ。必ず」
そう言うとアイ―ヌは嬉しそうに笑った。
「あ、それと。今夜、ルギトの泊まる場所ないでしょう? ここを使って」
アイ―ヌが手渡したのは、場所が書かれたメモと鍵だ。
「ありがとう。今夜はここに泊まるよ」
この時代にルギトが住む所がない事に今気がついた。危うく野宿でもするしかないところだった。
「それじゃあね」
「うん、また明日!」
ルギトはアイ―ヌの自室から飛んだ。
次に映る光景は、田舎にある普通の家より明らかに大きな家だ。
この家だけが異様に目立っていた。
「俺には贅沢すぎて、逆に怖いな」
家の中を見ても、人一人暮らすのには何不自由はなさそうだ。
ルギトは準備をし、温かい湯船に浸かった。
三十分ほどで出たルギトは、リビングに向かう。そこにあったソファーに横になった。体を楽にして初めて、自分がものすごい疲れていることに気がつく。
「あぁー眠くなってきた」
これから先の事を考えるのは明日からにしよう、と思いながらルギトは深い眠りについた。
朝日を感じてルギトは目を覚ます。昨夜はソファーでそのまま寝てしまったようだ。
ぽーっとする眼で辺りを見渡す。何だか落ち着かない。こんな広さの家で寝たのは初めての事だ。
顔を洗い、家を少し見て回ることにした。
家は二階あり、一階は風呂場と洗面所、台所とリビングと一部屋の寝室。二階は寝室の部屋が二部屋ある。
そして驚いたのは地下にある貯蔵庫だ。
そこには多くの食材がねむっていた。ルギトはその中から適当に見繕った食材を取り出す。
リビングに持ち込み、簡単に調理して朝ご飯にする。
「あ、勝手に使っちゃったけど、大丈夫だったかな・・・・・・」
と今更ながら後悔する。
「まぁその事後報告も含めて会いに行くか」
ルギトは気力を練り上げ瞬間移動を行い、昨日訪れたアイ―ヌの自室まで来た。
「アイ―ヌ?」
アイ―ヌの姿を探し、ベッドの上で穏やかに寝息をたてている彼女を見つけた。
「まだ寝てたか・・・・・・もうしばらくしたら起きるかな」
せっかく来たのにこのまま帰るのは、何だかもったいないような気がした。
ルギトはアイ―ヌが眠るベッドの隣の床に腰を下ろす。
良い夢でも見ているのか、アイ―ヌは嬉しそうに笑っていた。
しばらくの間、そうしていると。
「ふぁあ・・・・・・」
アイ―ヌはうめき声と共に目を開けた。
そして、彼女の視界は完全にルギトの姿を捉える。
「あぁールギトだー。ねぇさっきの続き続き」
「ん? さっきのって?」
「もうー、一緒に遊んでた・・・・・・あれ?」
アイ―ヌはここが自分の部屋の中であると気がつき、そして自分の意識が覚醒していくのが分かった。
「も、もしかしてさっきのは夢・・・・・・」
「おはようアイ―ヌ。良く眠れていたみたいだね」
「あ、う・・・・・・うん、おはよう」
アイ―ヌは耳まで赤くなっていた。自分の寝言が聞かれたのが恥ずかしかったのだろう。
「約束通り来たけど、もう少し遅く来た方が良かったかな?」
「だ、大丈夫! 今ちょっと準備してくるから」
慌てた様子でアイ―ヌは部屋を出る。ルギドはしばらくの間、その場で待つ。やがて部屋のドアが開いた。
「お、お待たせ」
寝間着から着替えたアイ―ヌは、おずおずとルギトの近くまで寄る。
「それで今日はどうしようか?」
「そ、そうね。じゃあお話でもしましょう。今の世界の様子は知っておいた方が良いでしょう?」
「うん、そうだね・・・・・・っとその前に、家にあった食料勝手に使っちゃったんだけど大丈夫?」
「全然大丈夫。いくら使ってもらっても構わないわ」
アイ―ヌの問いにルギトは安心して胸をなで下ろす。
(あれ・・・・・・でもあそこの食料って食べれたかしら。でも、ルギトは大丈夫そうだし平気かな)
アイ―ヌは内心で納得する。
「まず、三百年前の大戦以降、大きく変わった事は、奇跡の力の簡要化と、強力な奇跡の力を持つ者が台頭して国を作っていっる事ね」
ルギトは黙って聞く。
「科学者たちが、誰でも自分の好きな奇跡の力を使える装置を開発して、その技術が多くの国に流れ、今ではどこの国でも金と少しの訓練で誰もが好きな奇跡の力を使えてしまうの。ただし、私やルギトのような特殊な力は別だけどね」
「つまりお金持ちの権力者は自分の好きな力を好きなように使える訳か」
「一応、犯罪や私的利用で使う事は禁止で、取り締まってはいるけれど。貴族たちの多くは言い逃れされている状況かな」
アイ―ヌは少し悔しそうにしていた。
「大戦が終了した後も、争いはあちこちであったわ。その中で、英雄として強い力を発揮した者が王として国のトップに君臨している。それが今の国よ」
未だ平和にはなっていない事に、ルギトは悲しげに表情を曇らせる。しかし、もう良いのだ。自分の役割はもう終わった。
世界のために戦うのは終わったのだ。
「こ、今度はルギトの話聞かせて!」
アイ―ヌはルギトの様子を見て、話を変える。
「俺の?」
「うん、知りたいの。あなたのことをもっと」
「そう・・・か。うん、じゃあ話そう。えっとね・・・・・・」
そこから時間の許す限り、二人は会話を楽しんだ。ルギトの話す内容は新鮮でとても興味深いもので、今の時代とは違い、古き良き時代のように感じた。
そして気がつけば、日は大分上に昇っていた。
そんな部屋を誰かがノックした。
そして、ハッとなるアイ―ヌ。
「そういえば、今日はこれから用事があったんだ・・・・・・」
「それは大変。じゃあ俺は帰るね」
「うん、じゃあまたね!」
アイ―ヌは名残惜しそうにルギトに別れを告げた。
ルギトの姿が一瞬で消え、部屋の扉を開ける。
「王女様。先程カルエ様がご到着なさいました。是非労いのお言葉を」
「・・・・・・分かりました」
アイ―ヌは公務の顔となり、それ仕様の服装に着替えた後、部屋を出た。向かった先は、謁見の間であり、そこには先程任務から帰ったカルエとその部下たちからの報告のため王や、政務に携わるサイレン王国の重鎮たち、または貴族階級の者たちが一堂に会していた。
アイ―ヌは謁見の間に入り、王の隣へと向かう。
その王女の姿を見つけた男たちは皆一同、彼女の美しさに心奪われていた。
「報告を、カルエ公爵」
王座に座るアイ―ヌの父であり、現サイレン王国の国王ロガスト・ハンがそう告げると、顔を伏せていたカルエが面を上げる。
「はっ! イスカル帝国とデサイト共和国は、国境付近で未だ睨み合いが続いております。しかしデサイト共和国は、イスカル帝国にも近い豊樹の森の占有化を強引に推し進めているようです」
イスカル帝国とデサイト共和国は隣国同士だ。しかし両国の仲はすこぶる悪い。そんななか、どの国の領土にも属さない豊樹の森をデサイト共和国が強制的に占有しようとすると、森に近いイスカル帝国は良く思わないはずだ。
豊樹の森は、豊富な天然資源が取れ、綺麗な川、優れた農地なども存在している。
仮にデサイト共和国がこの森をとれば、今以上に国は豊かになるだろう。
「そうなれば、イスカル帝国は全力で阻止しようとするだろう、つまりは戦争ですかな」
重鎮の一人がそう告げる。しかし、と他の者が口を指す。
「なぜ、そのような挑発する行動をデサイト側は取るのでしょうな・・・?」
ロガスト王が髭をさすりながら思考する。
「何か、策でもあるのだろうな。たとえ戦になろうとも勝てる何かが」
「そのようで、デサイト共和国は周辺の小国を丸め込み、何やら企んでいるようです。ただその何かまではまだ把握しておりません」
「アイ―ヌは、これに関して何か夢を見たか?」
「いいえ、見ていません」
「そうか・・・・・・」
ロガスト王は言葉を切り、カルエ公爵を見る。
「ご苦労であった。そなたには、これより充分な休息を与えよう。何か褒美でもほしいか?」
「褒美ですか・・・・・・」
カルエ公爵はちらりと美しき王女を見た。
「では、マレーヌ王女の守護者の使命を承りたく思います」
「ふむ・・・・・・」
サイレン王国では代々、その身をとして王族の者を守る守護者という名誉ある役職がある。カルエ公爵が求めるのはそれだ。
「それは私の一存では決めかねるな。どうだアイ―ヌ。彼の実力上、問題ないと思うが」
「私は・・・・・・」
アイ―ヌは躊躇する。カルエ公爵は任務に忠実で、仕える者には忠誠を誓っている。実力はもちろん、性格も優しく、その整った顔立ちから、女性から非常に慕われている事をアイ―ヌは知っていた。
しかし、王族と守護者になった者の間には、必然的にそれまで以上の関係が築かれてしまう。なかには婚姻関係にまで発展した者たちだっている。
その事に抵抗があった。
「カルエ公、それには及びますまい。マレーヌ王女の守護者の任は、私にこそ相応しい」
カルエ公爵と同じ貴族階級である、アルマ公爵がそう口を挟んだ。
これにはたまらずカルエ公爵も反論する。
「何を言うか! 私の方が王女の事を思っているのだ。私の方が相応しい」
一触即発の空気のなか、アイ―ヌが声を大にして言う。
「私は・・・・・・守ってくれる者を決めております」
これは本当の事では無い。つい嘘をついてしまった。
「ほう・・・・・・それは私が知っている者ですかな?」
「そ、それは・・・・・・」
「まあその話はまた今度に。取りあえず褒美の件は見送りでかまいませんか?」
ロガスト王が頷くと、カルエ公爵たちは退出していった。
深く追求しなかったのは、アイ―ヌの言う言葉が嘘だと見抜いていたのかもしれない
「カルエ公爵との件、もっと真剣に考えておいた方がよいぞ。お前もそろそろ守護者の者を決めなくてはいけない。それは分かっておるな?」
「・・・・・・はい、お父様」
アイ―ヌは気まずさで、父親から顔を背けた。