大予言者との出会い
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救世主 ルギト。
彼は長きにわたる世界大戦を終わらせ、平和に導いた最大の功労者だ。
しかし彼は終戦後、その姿を消した。
彼の存在を擁護して、その後の世界情勢の有利に立とうと考えた国も、
彼を英雄視し、祀り上げようとした民衆も、
血眼になって彼を探したが、ついぞ彼の存在は見つからなかった。
やがて世界の関心は、それぞれの国の発展に向けられた。
時が流れ、救世主ルギトの存在は書物の中の伝説上の存在となったのだ。
それから三百年後。
深い森の中で、一人の男が横たわる。森の中は薄暗く夜を迎えていた。
不思議と彼の周りの土は腐り、その周りの木々も一様に全て枯れていた。
「・・・・・・見つけた」
この場に似つかわしい高貴な服装に身を包んだ一人の美しい少女が横たわる男に近づいていく。
「うっ・・・・・・何て力なの。これほどの気力を持つ人間がいるなんて」
少女は苦しそうに顔を歪めた。しかし少女は彼に会うために来たのだ。ここで帰るわけにはいかなかった。
「起きて。ねぇ起きて」
少女は彼の体を揺する。
男が眠るこの森は、安全ではない。危険なモンスター等も数多く生息している。
無力な少女が、一人でいて良い場所では、決してない。
しかし、少女は待ちきれず、やって来てしまった。
少女に揺すられ、やがて男はゆっくりと目を開けた。
「あれ・・・・・・君は? っていうか俺、寝てた・・・・・・のか?」
はっきりとしない意識で、男は頭を押さえる。
朧気な記憶を探っていた。
「あなたの名前はルギトか??」
男ははっきりと少女の声を聞いた。
「そうだよ。俺の名前はルギトで合っている。君は?」
男、ルギトは嬉しそうに笑う少女に問う。
「私の名前はアイーヌ。アイーヌ・ハン」
少女はマレーヌと自己紹介する。
男は彼女の名前に少し覚えがあった。
「ハン? どこかで聞いた事があるような」
「そうでしょう。ハンの名前を持つのはサイレン王国の王族だけ。あなたの時代にもサイレン王国はあったから聞いたことがあるのだと思うわ」
そうだ。少女の言う通りだと、ルギトは思い出す。
しかし、それより気になった言葉がある。
「俺の、時代? どういう事?」
ルギトは困惑した様子で問う。
「その前に、ルギト。あなた、あふれ出る気力が漏れているわよ。少し抑えないと私も厳しい」
そこでルギトは辺りの様子を見て、自分の気力の影響だと察した。
この世界に住む人間には、気力と呼ばれる人の内から発せられる力が宿っている。
気力を上手く操ることで、自身の膂力を強化したり、不思議な力を使えたりする。
しかし、ルギトのように、周り自然に影響及ぼす程の気力の持ち主を見たのは、アイーヌとっては初めてだ。
「ごめんごめん。今やるよ」
そう言うとルギトは、意識を集中させる。途端、気力の放出は収まった。
アイ―ヌは息苦しさから解放される。
「ごめんなさい。色々と説明したいけど、私、家から抜け出してきちゃったから、そんなに長い時間居られないのよ・・・・・・」
アイーヌは残念そうにそう言った。
「そうか・・・・・・場所はどこ?」
「え?」
「帰る場所。詳しい座標とか教えてくれれば送っていけるから」
「そんな、別に私は・・・・・・」
遠慮するアイ―ヌだが、ルギトはここがどこかの森の中だと分かっていた。こんな場所から彼女一人を帰す訳にはいかない。
「良いから。ほれ言ってみて」
観念したようにアイ―ヌは自室の場所を教えた。
「ん、了解。それじゃあ掴まってて」
ルギトはアイーヌの手を握り、気力を練り上げ自身の内なる力を使用した。
「瞬間移動」
二人の姿は一瞬でこの場から消えた。
そして次の瞬間には、王城にあるアイ―ヌの自室の中にいた。
「い、今のが・・・・・・救世主ルギトだけが使えたとされる瞬間移動能力。まさか自分の身をもって体験できるなんて」
一人感激するアイ―ヌに苦笑いを浮かべ、ルギトはざっと室内を見回す。
「こんな大きな部屋が君の自室か。それにさっきの君の言葉・・・・・・アイーヌ、君はもしかしなくても王族の者だよね?」
「いかにも。私はサイレン王国の王女である」
「そっか・・・・・・これからは敬語で話した方がい良い?」
「あ、いや。あなたには普通に話してほしい・・・・・・」
アイ―ヌはもじもじと照れたようにルギトを見た。
「ん、了解。それじゃあ、アイ―ヌ。さっきの質問の続きなんだけど、聞いて良いかな? 時間とか平気?」
「あ! もちろん大丈夫。あなたには重要な事よね」
アイ―ヌは慌てて居住まいを正す。
「信じてもらえるか分からないが、この世界は、ルギトがいた世界の約三百年後の世界という事になるの。つまり、あなたは何らかの方法で過去から未来へやって来た」
「三百年後の世界・・・・・・」
ルギトはアイ―ヌの言葉に驚き、しばらく言葉を失った。
「どうしてそんな事に・・・・・・」
「詳しくは分からないわ。ただ、歴史の史書によるとルギトは大戦以降、突然姿を消してしまったという事になっているのよ」
なるほど、本当に姿が消え、時間の壁を越えて、この世界に来てしまった。
信じられない話ではある。
しかし目の前にいるマレーヌが、嘘を言っているようには見えなかった。
「分かった。それで次の質問なんだけど・・・・・・」
「そ、そんな簡単に信じても大丈夫なの?」
「ん? だって嘘ついてないでしょ」
「そ、そうだけど」
「じゃあ大丈夫」
「う、うーん。まぁあなたがそれで良いなら・・・・・・それで次の質問は」
どこか納得できない表情のままマレーヌはルギトの次の質問を聞いた。
「どうしてマレーヌは俺の居場所が分かったの? それに名前というか正体も」
マレーヌは表情を改める。
「夢で見たの。あの場所で、あなたが来るって。この予知が、私の奇跡の力だから」