九.ノンストップ・イースフル その二
梅林弥生。彼女はイースフルの6度目以降のアホな作戦には反対だった。
阿久竹の言い分はわかっていたが納得していなかった。
しかし懸命に頑張る彼を止めることが出来なかった。何しろ文字通り命を懸けているのである。
弥生が口に出せずにいると、彼は次々とアホな作戦を実行していった。
6度目
7度目
8度目
どんどん罪が重くなっていく。取返しのつかない事態になっていく。
そして9度目の作戦後に弥生は覚悟した。
彼と一緒に死ぬ覚悟をした。
正確には助けられないなら一緒に死ぬ覚悟をした。
それが阿久竹の補佐官である自分の使命だと思った。
弥生はアジトの会議室でイースレイと話をするための通話スイッチを押した。
事前に一報を入れておいたのでイースレイはすぐに3Dホログラム映像で現れた。
「どうした弥生?何があった?」
イースレイが声を出すと同時に弥生は土下座した。それはもう見事なほどの土下座をした。
それは普段はクールな表情をしている彼女からは想像もできない姿であった。
そして真実を話した。
イースレイは彼女の懺悔を聞いた後、彼女に対してこう言い放った。
「貴様ら調子に乗るなよ。」
イースレイの言葉に弥生は顔にこそ出さなかったが凍りついた。
(やっぱり無理か。・・・覚悟はしていたが、いざ死を目の前に突きつけられると怖い。怖いよ阿久竹。でもお前と死ねるならまだましなのかな。)
心の中で震える彼女にイースレイは言葉を続ける。
「お前らまさか私がそのことに気づいてないとでも思っていたのか?」
イースレイの予想外の言葉で弥生は顔を上げた。
イースレイを見ると代理姿のマスコットキャラが大笑いしていた。
変声機での笑い声なのでかなり気味が悪かった。
「まったくお前らときたら本当に面白いな。私を欺けたと本気で思っていたとは。」
イースレイの言葉の意味がわからずに弥生は思わず問いかけた。
「あの・・・イースレイ様?どういうことでしょうか?」
「ああ。私は6度目の報告書の時点でお前らが私に嘘をついているのに気付いていたぞ。6度目の報告書の内容が5度目までと違ってあまりにもアレだったからな。調べてみたら案の定というわけだ。」
その言葉に弥生は愕然とした。頭が追い付いていなかった。イースレイは話を続ける。
『イースレイ様が嘘の報告書に対して何も言わない・・・ということはアホな作戦を実行していという許可が得られたんだ!キャッホー!アホな作戦実行実行!』
「・・・私はお前らがこう考えて行動していると思っていたのだぞ。でも違っていたのだな。」
マスコットキャラがため息を吐いた。かなりむかつく仕草であった。
「まあよい。それよりも弥生。10度目のアホな作戦はお前が考えろ。それが今回の件のお前に対する罰だ。」
イースレイは弥生に罰を与えた。
「私がですか?」
「そうだ。少しは愛する男の苦労ぐらい知るがよい。」
「別に私は阿久竹のことを愛していませんよ。」
「そうなのか?まあよい。とりあえず10度目の作戦はお前が考えろ。阿久竹と他のメンバーには10度目の作戦の後に私から話をすることにする。以上だ。」
マスコットキャラは弥生に手を振るとそのままフッと消えた。
次の日、弥生は与えられた罰を実行した。自室で1人作戦を考えた。
そして阿久竹の苦労が心底わかった。
(・・・何これ?作戦が全然思い浮かばない。阿久竹のやつ1人でずっと考えてたの?)
彼女は阿久竹を馬鹿にしていたのを反省した。
彼女は考えに考えを重ね、ようやく1つの作戦を思いついた。
そして教室で1人悩んでいる阿久竹に作戦を話した。
それが今回の追跡作戦である。
そして今に至る。
「阿久竹よ。お前にも彼女同様、罰を与えねばならん。」
「なんなりと。」
阿久竹はどんな罰であろうと受け入れる覚悟があった。
そんな彼にイースレイは罰を告げる。
「『立ち止まるな』。それがお前に対する罰だ。」